波乱の「英国EU離脱」は急転直下の3月合意も 親EU派とEU懐疑派の攻防、諦めないメイ首相

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このところの労働党議員への呼びかけとさまざまな懐柔策にもかかわらず、2度目の投票で政府案の受け入れに投票した労働党議員はわずか3名で、初回投票から増えなかった。一方で、14日の投票に先駆けて行われた国民投票のやり直しを求める修正動議に、労働党の離脱派議員の18名が反対票を投じた。

労働党内には、離脱支持の有権者が多数を占めるイングランド北部を地盤とする議員も多い。そうした議員の一部は、穏健な離脱や国民投票のやり直しになるくらいならば、政府の合意案を支持した方がマシと考える可能性がある。だが、それは党の方針に背くことになるため、保守党の強硬離脱派の票が固まり、議会で離脱合意案が通りそうになった段階で初めて彼らは動く。

メイ首相が報われる3度目の正直か

149票差は途方もない数字にみえるが、保守党内の強硬離脱派の多く、DUP、労働党の離脱派は、同じような誘因で投票行動を決定している。DUPが折れれば、強硬離脱派の多くが政府案の受け入れに傾くと言われている。

追加の法的助言や長期の協議期限延長の脅しでも、合意受け入れに必要な賛成票に届かない場合には、いよいよメイ首相の離脱案は行き詰まる。保守党内の強硬離脱派の賛成票を最大限固めたうえで、足りない分について労働党の離脱派議員の協力を求めることで埋めようとする従来の戦略を、変更する必要に迫られよう。

メイ首相の側近は、20日までに議会が政府の合意案を受け入れない場合、21~22日の欧州首脳会議後に、どの離脱案を議会が選択するか、つまり強行離脱か穏健離脱かの審議時間を設けることを示唆している。ただ、そうした方針転換の可能性が出てきた時こそ、強硬離脱派には合意をまとめたいとの力学が働く。振り子の針が大きく振れた時こそ、戻ってきた針は逆方向に大きく振れるものだ。急転直下の3月合意に向けて、3度目の正直か4度目の正直に向けて舞台は整いつつある。

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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