フリーターが支える急成長企業の秘密

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フリーターが支える急成長企業の秘密

急成長を続ける「フリーター集団」がある。

ソフトの不具合検出(デバッグ)サービスのデジタルハーツ。2008年11月末時点の正社員129人のうち、管理部門を除く業務系104人のほぼすべてがフリーター出身者。要となる不具合検出に携わるテスターに登録するアルバイト人材が約3000人おり、大半がゲーム好きの20代男性フリーターたちだ。

そもそも創業者の宮澤栄一社長兼CEO(36)をはじめ、創業メンバーすべてが元個人事業主と称するフリーターだった。宮澤社長は、大手音楽事務所でJポップの作詞をする傍ら、ゲーム音楽の作詞の仕事で開発会社に出入りし始めた。

当時、デバッグはゲーム開発の一部として「やっつけ」的に行う業務という性格が強く、大手ですら社内に体系的なノウハウの蓄積ができていなかった。宮澤社長はそこに着目、01年にデバッグのみを専門で請け負う会社を立ち上げた。

転機となったのは、会社設立の約3カ月後。新型ゲーム機「Xbox」向けソフトの大口の仕事が舞い込んだ。大急ぎでテスターの陣容を整える必要が生じ、アルバイト情報誌に「日本じゅうのゲーマー集まれ!」と題する「職歴不問」の募集広告を出した。面接には2日で300人が集まり、100人前後を採用。この仕事で実績をつくり、以後、ゲーム業界の名だたる主要各社に食い込んでいく。現在は年商20億円を突破、08年2月に株式公開も果たした。

当社が得意とするデバッグは、ユーザー視点で不具合を見つけ出す点が特徴だ。プログラムのスキルなどは不要だが、長時間連続で同じボタンを押し続けるなど単調な作業も多く、単なるゲーム好きでは務まらない。それでも多くの若者を引きつける理由の一つは、正社員へのキャリアパスが明示されていることだ。

通常アルバイトは、1週間のOJT研修後に週3~4日の登録制で採用される。その後「レギュラー採用」(時給もアップ)、「契約社員(準社員)」(時給さらにアップ)と階段を上り、そこから社員への道が開かれる。社員になるには早い人で約2年前後かかるというが、最近は「飛び級」的な制度もできている。川口兼一郎専務兼COO(30)は「客先からの信頼が重要なので、現場のたたき上げに社員になってもらったほうがいい」とその狙いを語る。

3年前にアルバイトとして入社し、07年4月から正社員となった三宅篤志さん(デバッグ事業本部業務部業務一課課長代理、27)は、契約社員のときに30人ぐらいのスタッフを束ねる役目を任された。「最初は会社員になるという意識はなかったが、組織でものを作り上げる面白みを知った。登録社員時代から、自分の考えを気軽に口に出せる雰囲気だった」(三宅さん)。

上司も同じような経歴であることで、ロールモデルが描きやすい利点もある。三宅さんの上司、河野亮さん(執行役員デバッグ事業本部長、31)。高校卒業当時は就職氷河期真っただ中。フリーターとしてデバッグの仕事をしていたところに宮澤社長から声がかかり、立ち上げ当時の同社にアルバイトとして入社した。

当時のメンバーの半分以上は退社したが、「上場を目指し、会社から企業になる過程の壁を乗り越える仕事にやりがいを感じた」(河野さん)。

同社には通常の人事部とは別に、「人材戦略部」という組織がある。バイト本人の適性や意欲、現場の上司からの評価などを総合判断して昇格のタイミングなどを決める。また、コミュニケーションを高める工夫として、バイトを含めた社員はすべてネット上に「マイページ」を持ち、会社や仕事についての意見や提案を携帯電話から書き込める。書かれたことは、社長以下すべての正社員の目に入るようになっているという。

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