会社内で"埋もれた人材"が生まれ続ける理由 「経験とカンに頼った人事」はとても多い

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ちなみにBさんの前任の上司は、部下とのコミュニケーションが大好き。趣味や将来の夢など幅広く部下のことを知る努力を怠らない人であったようです。それゆえ、Bさんが仕事のために学習機会をたくさん費やしていたことも、その蓄えた知見も理解していたのです。

ところが、その情報は後任となった現在の上司には引き継がれていませんでした。さらに、現在の上司は部下からの積極的なアピールを期待するタイプ。自分から部下に歩み寄ることはあまりしません。すると、無口で無愛想なBさんと上司の距離は広がり、わずかな接触機会の印象で評価がされたため、学習機会を積極的に取っていないという誤解が生じてしまったのです。

Bさんは現在のような職場環境が長く続くのであれば、転職をするという覚悟を固めつつあるようでした。でも、それでいいのでしょうか? 大いに残念な状況に感じて仕方ありません。

ただ、同じような状況で埋もれた人材になってしまったと認識している人はBさんだけでなく、何人も遭遇したことがあります。こうした、経験と勘に頼った誤解で仕事ぶりを見逃すことは避けていきたいものですが、どうしたらいいのでしょうか?

経験と勘に頼らない人事システムへの移行

筆者は人材を複数の目でみて、エビデンスを残し、適材適所や人材開発など戦略的な人事に活用する仕組み=HRテックと呼ばれる人事システムの活用を加速させることが解決の1つの方法ではないかと思います。

これまで人事システムは給与を間違いなく支払うために必要な情報を優先的におさえておくことに力点を置きすぎて、それ以外の目的での活用するための情報を蓄積してくることを怠ってきました。ところが、クラウドでタレントマネジメントと呼ばれる人材のさまざまな情報を蓄積できる人事システムが登場して、経験と勘に頼りすぎない人事の実現が可能な状況になってきました。

まずは社員のさまざまな情報、例えば過去の職務経歴に加えて、将来的に希望している仕事内容であったり、受講した研修の履歴や取得した資格やスキルといったことの情報を蓄積することです。

さらに日々の業務を報告する日報なども蓄積しておくことで、社員たちの可能性を見逃す可能性は下げることが可能になるでしょう。さらに歴代の上司からみた人物評価や能力を時系列で残しておくと、職場への適応力や相性も見えてくるはずです。

筆者もかつて、異動してきた部下に関して前任の上司の評価は相当に低かったが、さかのぼった上司に聞くとむしろ評価が高かった、ということを経験したことがあります。前任の上司によるマネジメントに合わなかったがゆえに低い評価を受けており、本人の本来のポテンシャルはもっと高いと認識できたことがありました。

もし、さかのぼって確認をしていなかったら、その部下に対して間違った印象を刷り込んだ状態で接していたかもしれません。できれば、こうした歴代上司の評価は履歴として残しておいてほしいものと痛感しましたが、当時は手軽な人事システムもなく諦めていたように記憶しています。

でも、環境は変わりました。複数の目で見た人事情報を蓄積し、仕事ぶりを見逃さないようにするということについて、かなり実現可能になっているのです。人材難に悩む時代、埋もれた人材を増やすことは極力避けたいものです。

高城 幸司 株式会社セレブレイン社長

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たかぎ こうじ / Kouji Takagi

1964年10月21日、東京都生まれ。1986年同志社大学文学部卒業後、リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。また、当時の活躍を書いたビジネス書は10万部を超えるベストセラーとなった。1996年には日本初の独立/起業の情報誌『アントレ』を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後、株式会社セレブレイン社長に就任。その他、講演活動やラジオパーソナリティとして多くのタレント・経営者との接点を広げている。著書に『トップ営業のフレームワーク 売るための行動パターンと仕組み化・習慣化』(東洋経済新報社刊)など。

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