なぜ軽自動車はグローバル展開できないのか 性能は著しく向上しているが…

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軽自動車は車両のサイズとエンジンの排気量、乗車定員などに上限が設けられている。税制優遇の代償だが、日本独自の規格のため、そのまま海外市場に投入するのは適さない。とりわけ、660ccという排気量は特殊なうえ、現在の車体の大きさに比べると明らかに非力でクルマとしてのバランスも悪い。

しかも、エンジンの開発・生産投資には多大な費用がかかる。その負担は軽自動車でもより大きな排気量のエンジンを持つ普通車でもさほど変わりはない。にもかかわらず、軽自動車用エンジンは市場が国内に限定されるため、採算が悪い。これに対し、グローバルで利用されるエンジンを搭載できれば、コストダウンが図れるうえに性能のバランスもよくなる。

現在でも、小型で安価なクルマ作りという点で、新興国のエントリーカー生産に軽自動車のノウハウは生きている。それは、スズキがインドで、ダイハツ工業がインドネシアでトップメーカーであることが証明している。車体に加えエンジンも含めた自動車開発全体を新興国向けの自動車と軽自動車で共通化できるようになれば、メリットは大きい。

ホンダは軽の車台を利用

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ホンダのNシリーズ最新作、「N-WGN(エヌワゴン)」

スズキ、ダイハツに限らず、軽を新興国市場攻略に生かそうという動きは盛んだ。2011年から軽自動車に本格再参入をしたホンダは、軽自動車「Nシリーズ」のプラットホーム(車台)を新興国の低価格車のプラットホームとしてグローバル展開する方針を明らかにしている。

2013年から軽自動車の共同開発車を投入した日産自動車と三菱自動車も、軽自動車開発を行う合弁子会社「NMKV」の体制を強化し、グローバルエントリーカーを共同開発する。軽自動車の規格を拡張できれば、こうした新興国攻略も行いやすくなる。

「車幅を多少広げ、800~1000ccクラスのエンジンを搭載できるようになれば、グローバル展開につなげるうえでのメリットは大きい」と前出の渉外担当幹部は言う。

 縮小していく国内市場での"優遇"を手放す代わりに、伸びゆく新興国展開での可能性を広げる。大きな波乱もなく増税が決着した背景には、自動車業界の軽自動車規格をめぐるしたたかな計算も働いていそうだ。

(撮影:尾形文繁)

丸山 尚文 東洋経済 記者

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まるやま たかふみ / Takafumi Maruyama

個人向け株式投資雑誌『会社四季報プロ500』編集長。『週刊東洋経済』編集部、「東洋経済オンライン」編集長、通信、自動車業界担当などを経て現職

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