東海テレビ「ドキュメンタリー映画」への執念 プロデューサー&監督に聞いた「続ける理由」

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齊藤:亡くなられたお母さんが、息子の奥西さんに送った手紙など、たくさんの資料を読んでしまったのが大きいかもしれません。

阿武野勝彦(あぶのかつひこ、写真左)/1959年生まれ。1981年東海テレビ入社。アナウンサーを経てドキュメンタリー制作。プロデュース作品に『ヤクザと憲法』『人生フルーツ』など
齋藤純一(さいとうじゅんいち、写真右)/1967年生まれ。1992年東海テレビ入社。監督作品に「裁判長のお弁当」(2007年・ギャラクシー大賞)、『死刑弁護人』(12年・日本民間放送連盟賞最優秀賞)など。現・報道局総合プロデューサー (筆者撮影)

それと「司法シリーズ」といっていますが、裁判官や検事に密着した『裁判長のお弁当』や『検事のふろしき』といった番組の取材をする中で、裁判官は独立した存在でありながらも司法という「村」社会にいることがわかってきた。そういう蓄積に加えて、何十年も経て新たな証拠が見つかる。それぐらい疑わしい事件だということでもあるんですよ。

阿武野:つまり「終わらない事件」なんですよ。早く終わらせたい人たちはたくさんいるのですが。

──ということは、今回の作品で完結というわけではない?

齊藤:奥西さんが亡くなったところでピリオドを打とうと思いましたが、妹さんが再審請求を続けておられるので、粘り強くつくりたいですね。ここまできたら意地もありますよ。

本当に悪者なのか確かめたい

ここで東海テレビの過去の作品にも触れておきたい。
齊藤監督が手掛けた『平成ジレンマ』は、2011年に東海テレビとして初めて劇場公開した作品だ。主人公は、スパルタ教育で知られる戸塚ヨットスクールの戸塚宏校長。寮生が死亡するなどした事件後、6年の刑期を終えスクールは再開しており、そこにカメラが入っていく。最初は「なぜこの人を撮ろうとするのだろうか」と抵抗感があったが、次第に引き寄せられていく。同じく、齊藤監督の『死刑弁護人』(2012年劇場公開)もそうだ。光市の母子殺人事件などの弁護を引き受けた弁護士を追ったドキュメンタリーだ。

――なぜこうした独特な人たちを取材対象に選ぶのでしょうか。

齊藤:日の当たっている人はどのマスコミも取材しますが、日の当たらない人こそ見てみたいというのがあります。バッシングを受けている人だけど、本当に言われるような悪者なんだろうか、それを見てみたい。

──そういう対象者を取材する際、距離感が難しいと思うのですが。

齊藤:僕も戸塚さんのことを最初、怖い人だと思っていました。阿武野と取材交渉に行ったときに、何かあったら殴られるかもしれないと、不安を抱きながら対面したら、あれは何ジュースを頼んだんでしたっけ?

阿武野:クリームソーダ。喫茶店に入って僕ら2人はコーヒーと言ったあとに、「僕はクリームソーダ」って(笑)。ブラックコーヒーを飲みそうなイメージだったのに違った。

齊藤:そこで、この人も人間じゃないかと思った。この人を密着してしっかり見てみたい。より強く思いましたね。

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