スーパーで働きつつ寿司屋を開いた男の達観 猛烈な修業を経て生家の家業にたどり着いた

✎ 1〜 ✎ 51 ✎ 52 ✎ 53 ✎ 最新
拡大
縮小

江戸前ずしは、江戸時代東京湾で捕れた魚を、酢や塩で締めたり、タレに漬け込んだりして、日持ちするよう工夫したすしである。

大阪ずしは、起源は平安時代まで遡る発酵ずしだ。発酵ずしでは、なれずしが代表的だ。巻きずし、バッテラずしなども、大阪ずしと呼ばれる。

どちらも現在の主流のすしではないが、大いにすし職人の腕が試されるすしである。

文献をたどり古い技術を再生させることも

「『おすしの店』にしたかったので、あてもの(おつまみ)は極力置かないことにしました。心から『すしを食べたい』と思ったとき、うちを選んでほしいですね。

今はすしバーを名乗ってますが、すし好きが集まるすしサロンにしたいと思ってます。空間を楽しんでもらいたいですね」

近藤さんは自分のことを“すしオタク”だな、と自覚している。美味しいモノには貪欲だ。

文献をたどり古い技術を再生させることもある。また、たまたま食べに行った、ミシュラン二つ星のレストランのメニューを再現する。頭の固い人には邪道と呼ばれる技法だって、美味しければドンドン取り入れていきたい。世界各国の食材加工の技術(たとえば鶏をヨーグルトに漬け込んだタンドリーチキン)もいつかすしに応用できると思っている。

「夢は大きかったですが、いきなりすし屋の収入だけで運営していくのは厳しいですから、お昼はスーパーで働きました。当初はお昼の稼ぎで家賃を払っていました」

“丁寧に仕事をしたすし”を提供するということは、つまり作業時間が長くかかるということだ。スーパーで働きながら、すし屋をするのはとても大変だった。

「朝8時に起きて市場に行きます。買った魚はいったんバイト先のスーパーの冷蔵庫にしまって、それからはスーパーの仕事をします」

松寿しは狭いため店内で仕込み作業ができない。14~15時に仕事を終えて、実家のすし屋へネタを持っていき、そこで急いで仕込みをする。お米も炊く。

「ここ(松寿し)で仕込みをしたほうが効率がいいのはわかっているんですけどね。こればっかりは仕方がないです」

仕事をしたネタやシャリを持ってお店に向かい、19時にお店をオープンしていた。

そんな忙しい日々を送っていたが、同時にお客さんを呼び込む努力もしていた。

「知り合いのバーで開催したすしイベントに参加しました。サービス価格でまずは皆さんに僕のすしを食べてもらって、自分の腕を見てもらいました。

すし屋をオープンして、友達が食べに来てくれるか? というとそんなことは全然ないんですよ。腕の保証がないと、友達だって来てもらえません。そうやって、食べていただいて自分の腕を知ってもらいました」

次ページスーパーの閉店を機にすし屋一本に
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT