北陸・小浜、遠い「新幹線着工」への大きな期待 4年後に敦賀開業、地域の議論はまだ手探り

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質疑では「大都市に住んでいたころ親しんだ、大型郊外店と全国チェーンカフェを誘致できるか」という質問も出た。筆者が青森市の事例を参考に「むしろ、全国一のカフェを兼ねた職場に造り替えてはどうか」と答えたところ、来場者に微笑が広がったように見えた。

小浜湾近くの町屋群=2018年11月(筆者撮影)

今回の訪問では、地元の方々の厚意で、駆け足ながら敦賀市内や福井駅前を見て歩くことができた。そして、嶺南地域全体として、小浜開業はもちろん敦賀開業についても、地域づくりの議論がまだ手探り状態らしいことを確認できた。敦賀は嶺南のゲートウェーとしてどう機能するのか。小浜市だけでなく、周辺市町は今後、2023年春に向けてどんなビジョンを描き、施策を展開するのか。

「原子力」で青森と共通点

原子力施設が多く立地する福井県や嶺南地域には、筆者が住む青森県といくつもの共通点を見いだせ、意外なほど身近に感じられた。

福井では、東日本大震災と福島第1原発事故の発生の後、地域づくりの在り方を見直す機運が生じる一方、「越前・若狭」、「嶺北・嶺南」という、境界が異なる地域の構造(敦賀市は嶺南地域ながら越前に属する)や原子力施設の立地が、地域の政治・経済・社会に微妙な影響を及ぼし続けているらしいこともわかった。

新幹線開業は「巨大な条件変更」を沿線の内外にもたらす。しかし、定式化できる要素はむしろ少なく、その影響は地域ごと・時代ごとの固有性が強い。

特に福井県内は、敦賀開業による首都圏からの時間距離の短縮効果が限定的なうえ、運賃が高くなる可能性もある。他方、敦賀と姫路の間をJR西日本の新快速が頻繁に走っており、敦賀到達によって北陸新幹線が近畿圏内に到達する、という一面もある。

時間距離の遠近法や経済効果が見えにくい中で、真の効果をどう想定し、地域づくりやマネタイズの新たな仕組みをどう創出していくか。人口減少時代に見合った連携と合意形成のスタイルをどう編み出していくか。イベントやキャンペーンの出番はまだ先だが、丹念な地域づくり、年間単位の予算・事業策定と執行を考えれば、敦賀開業までの4年は文字通りあっという間だ。

とはいえ、開業はあくまでも新幹線活用と地域づくりのスタート、学校でいえば「入学」でしかない。その後には、「卒業のない新幹線時代」が続く。だが、その事実は開業済みの地域でも看過されがちだ。本稿で触れられなかった敦賀市や嶺北地域の対応を含め、福井地方の開業対策を「最良の新幹線対策は最善の地域づくり」という観点からウオッチしていきたい。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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