イラク情勢を見通したシンセキ将軍、日系人初の退役軍人長官に内定


 1月20日のオバマ新政権誕生まであと僅か。そのオバマ体制の一翼となる退役軍人長官に、日系アメリカ人エリック・シンセキ(新関)をバラク・オバマ次期大統領が指名した。日系米国人の閣僚は、ノーマン・ミネタ元商務・運輸長官しか前例がない。

エリック・シンセキが全米の注目を集めたのは、彼が日系人で初めて陸軍参謀総長を務めていたときのこと。2003年2月の上院公聴会で「(占領後のイラクを)管理するためには数十万人の兵隊が必要」と発言したからだ。

当時、ドナルド・ラムズフェルド国防長官を初めとするブッシュ政権は、10万人以下の小数派兵を主張していた。上司の見解と全く異なる意見を述べたシンセキは、陸軍内でも指揮が困難になるなど、苦しい立場に追い込まれる。

元々、ラムズフェルドは弁舌厳しい直言で知られ、実戦に参加したことが無く、軍を非効率な組織と軽視。一方、シンセキは寡黙で実直な実行型であり、お互いに合わなかったとのではと、ワシントンで憶測されていた。

通常、陸軍参謀総長退任の際には、政権トップも式典に出席して労をねぎらうが、シンセキが参謀総長退任のときには、ラムズフェルドも、ブッシュ大統領も出席しなかった。

しかし、歴史はシンセキ前陸軍参謀総長が正しかったことを証明した。少数のイラク派兵では、イラクをコントロールできず、美術館、博物館、ビルが破壊され、治安が悪化。結果、ブッシュはイラクに米軍を増派しなければならなかった。

地理的な要因や民族間の緊張から、イラク派兵数は多大な数が必要になると予測したシンセキ。民主党議員らは、イラクの混迷は「シンセキ将軍らによって予測されていた」「彼は素晴らしい兵士で、リーダーだ。もし、彼の証言を聞いていれば、今日のようなことにはなっていなかっただろう」と高く評価。

オバマ次期大統領も「彼(シンセキ)は正しかった」と評価し、「彼と私は国に仕える人々への崇敬を共有している」と語る。シンセキの退役軍人長官を評し、米雑誌タイムは「ある大統領の下でゴミだった人材が、別の大統領にとってはお宝になる生きた証拠」とブッシュ政権を揶揄している。

エリック・シンセキとはどんな人物なのか。祖父が広島県からハワイに移住した日系3世で、ハワイのカウアイ島で1942年に生まれた。65年に陸軍のエリート校ウエスト・ポイント(陸軍士官学校)を卒業し、デューク大学英文学修士号を取得した。その後、軍に戻り、ベトナム戦争に従軍した際には、地雷を踏んで足を負傷するなど、何度か名誉の傷を負った。

ヨーロッパには10年以上駐在し、陸軍中将、大将に昇進。97年に米・欧州軍司令官に就任し、ボスニア・ヘルツェゴビナに平和安定化部隊(SFOR)司令官としての任務も果たした。99年に陸軍制服組のトップである第34代陸軍参謀総長に就任。米軍では参謀総長に就任するには上院公聴会で適正審査があり、上院議員の賛成多数が必要。その際、同じハワイ出身の日系人、ダニエル・イノウエ上院議員が取りまとめ、全会一致で承認された。

陸軍参謀総長から引退後は、軍のコントラクターであるハネウェルやファースト・ハワイ銀行などの取締役、ハーバード大学のケネディー・スクールの諮問委員、戦死した日系アメリカ人兵士に関する教育活動を行う非営利団体の全米広報担当など、地味に活躍していた。

ラムズフェルドをさらに批判すべきだったのではという声には、「私の兵士たちがイラクで血を流し、亡くなっているときに批判はしたくない」とハワイの軍博物館で語っている。イラク情勢の悪化で、退役将軍らがラムズフェルド長官の辞任要求を強めていた際も、公で発言することはなかった。

アメリカ国民の税金が湯水のように消えていくイラク戦争。戦場から帰ってきた兵士たちがドラッグにはまったり、アルコール漬けになり、浮浪者になるケースも多いという。実直で、戦争と兵士を知るシンセキ次期退役軍人長官の施策に期待したい。
(Ayako Jacobsson =東洋経済オンライン)
(写真:米陸軍)

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