増税対策に景気対策を併せるのがダメなわけ 消費者には負担増を正直に説明すべきだ

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消費税率を引き上げる際の経済に対する影響については、以前にも取り上げたことがある(『消費増税の先送りは正しい判断だったのか』2016年6月)が、再度説明しておこう。

消費税率を引き上げる際の消費の動きについては、増税前の駆け込み需要と、増税後の反動減として説明されることが多い。しかし正確に言えば、まず増税前に「駆け込み需要」が発生し、増税後には、増税による「反動減」と「実質所得低下の影響」という2種類の消費の減少が起こる。

消費税率が引き上げられると、税込みでは購入する商品やサービスの価格が上昇する。税抜き価格で100円の商品の税込み価格は、増税前には8円の消費税が加わって108円だったが、消費税率が10%になれば110円になるので、物価が上昇する。企業が通常の賃上げに加えて、増税分も追加で賃上げを行わないかぎり家計の実質的な所得が減少してしまうので、消費は増税がなかった場合の基調的な経路よりも少なくなる。これが実質所得低下の影響だ。

駆け込み需要と反動減の抑制には意味がある

消費者は税率の引き上げで価格が上昇することを知っているので、本来増税後の時期に購入するはずだったものを値上がり前に駆け込みで購入しようとする。増税後にはその分だけ消費が減少するという駆け込みの反動による消費減が起こるが、増税前の「駆け込み需要」と増税後の「反動減」の規模は同じになるはずである。

駆け込み需要とその反動減は合計すればゼロで、単に消費のタイミングが少し早くなるだけのように見えるが、時間的な差のために経済の変動が大きくなってしまうことが問題だ。

駆け込み需要による消費の増加は企業の売り上げ増となって収益を増加させ、賃金の増加や株価の上昇によってさらに消費が刺激されるという乗数効果を生む。企業が駆け込み需要を恒久的な需要の増加だと錯覚すると、在庫投資や設備投資の行き過ぎが起きてしまうこともある。

逆に、反動減が発生すると売り上げが減少して、企業収益悪化や賃金減少、株価下落を引き起こす。これがさらに消費を落ち込ませるという負の乗数効果が生まれる。反動減による落ち込みが非常に大きければ、企業の投資を冷え込ませて、さらに景気が悪化するという大きなマイナスのスパイラルが生まれてしまうおそれもある。そのため、大きな駆け込み需要が生まれないようにすることは重要だ。

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