東急、「池上線」テコ入れの裏に潜む危機感 2年連続で「活性化イベント」、住民の評価は?

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今回の祭りの評価は人によってさまざまだったが、いずれにせよ、前回の「フリー乗車」のインパクトが、かなり大きかったのは間違いない。認知度アップを狙うのであれば、今回もフリー乗車を実施すべきだったのではないかという疑問を東急側にぶつけると、「もちろん検討はしたが、前回は混雑しすぎて、沿線にお住まいのお客様から電車に乗れないというクレームが出たことなどもあり、今年は見送ることにした」(平江氏)という答えが返ってきた。ちなみに、その混雑状況に関しては、幸い事故にはならなかったものの、踏切が開いても渡れないなど、危険な状況も発生していたという。

また、「前回は確かに盛り上がったが、お客様の回遊性という点で課題があった。今回は池上線に乗っていただくだけでなく、沿線の街を広く歩いていただけるような内容のイベントにした」(東急広報企画課の加藤千咲氏)という。

なお、今回のイベントの効果としては、インパクトこそ前回ほどではなかったものの、「前回は、ほぼ東急主導のイベントだったが、今回は地元の商店街の皆様に、通常この時期に実施しないイベントをわざわざやっていただくなど、多くの面でご協力いただいた。沿線のブランディングは当社のみでは限界があり、地域の皆様と協力して行わなければ意味がない。池上線のブランディングを今後も継続的に実施していく道筋ができたという意味で大きな前進があった」(平江氏)とする。

池上線の魅力とは?

さて、改めて池上線の魅力とはどのようなものだろうか。

平江氏は「池上本門寺や勝海舟の墓地などの古くからの名所旧跡や、自然豊かな洗足池、戸越銀座など個性的で活気ある商店街が多く、訪れて楽しい場所がたくさんある」という。また、全線祭りの当日、本門寺境内で大田区のPRを行っていた大田観光協会事務局の小関みどり氏は、「都会だけれども気取らず、気張らずに住むことができる。一方で、山手線沿線や羽田へのアクセスも容易」と、沿線の住みやすさを強調する。

こうした沿線の魅力に加え、池上線には鉄道それ自体にも沿線外から人を引きつける面白さがたくさん詰まっている。たとえば、御嶽山駅には開業時からの木造駅舎がほぼそのまま残るほか、新幹線の線路と池上線のホームの一部が立体交差し、ホームから足元を高速で通過する新幹線が眺められる。

2018年3月に五反田駅―大崎広小路駅間高架下に開業した商業施設「池上線五反田高架下」(筆者撮影)

また、いくつかの駅に残る開業当時からの木のベンチも人気だ。旗の台駅の木のベンチは残念ながら駅リニューアル工事に伴い撤去され、新しいものに置き換えられるというが、池上駅のベンチは「工事完了後も何らかの形で残す予定」(平江氏)という。また、アクセスしやすい都心に、昔ながらの日本らしさが残る池上線は、本当の日本を体験したいという近時のインバウンド需要とも合致する。「今後はインバウンドにも訴求していきたい」(同)考えだ。

レトロな部分のみならず、2018年3月には五反田駅―大崎広小路駅間高架下に、新たな商業施設「池上線五反田高架下」が開業するなど、新たなコンテンツも増えつつある。池上線の多角的な魅力をイベント時に限らず、定常的に発信していくことがブランディング成功のために必要であることは言うまでもない。

森川 天喜 旅行・鉄道ジャーナリスト

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もりかわ あき / Aki Morikawa

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)。2023年10月~神奈川新聞ウェブ版にて「かながわ鉄道廃線紀行」連載開始

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