中国がGDP世界1位を狙うたった1つの理由 「統計データ」から読み解く国際情勢の現状

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なぜ中国がGDPの世界一を目指しているのか。理由はいたってシンプルで、中国はその経済力を武器に覇権の拡大と、人民元を世界の基軸通貨にしたいと考えているからだ。では、自国通貨が世界の基軸通貨になると、いったいどんなメリットがあるのか。ここで注目したいのが、アメリカの国際収支だ。

激しい「ドル安」にならない理由

いま、アメリカは膨大な額の貿易赤字を抱えており、それが原因で経常収支(貿易収支とサービス収支、所得収支の合計)も赤字になってしまっている。その赤字額は、なんと4517億ドル。日本円で約50兆円もの額のお金が、毎年のように国外に流出しているのだ。

このとき、国外に流出したお金は海外で現地通貨に換金されるから、巨額のドルが売られて激しいドル安が起きるはず。しかし、現実にそのようなことは起きていない。世界中のありとあらゆる通貨のなかで、ドルだけは「例外」だからだ。

いま、世界の貿易決済の5割近くがドルで行われているといわれている。これが、ドルが基軸通貨と呼ばれるゆえんである。つまり、ドルがないと決済できないわけだから、世界中の国々、特に自国通貨の弱い国は切実にドルを必要としているのだ。

ある人は「アメリカは“紙切れ”を輸出してモノを輸入している」などと揶揄しているが、それは基軸通貨だからできること。世界トップの経済大国だけに与えられた特権なのだ。

だからこそ、中国は人民元を基軸通貨にするべく、経済拡大を狙い、さらには「一帯一路政策」を強力に推し進めている。だが、当然ながらアメリカも、基軸通貨の地位を失うまいと必死になって対抗しているのが現状なのである。

アメリカが中国に対して激しい貿易摩擦を起こしているのは、もちろん、知的財産の保護や膨大な対中貿易赤字解消の狙いもあるが、その奥には、基軸通貨の地位の維持、覇権の維持があり、それこそが真の理由である。

貿易摩擦は「アメリカが損だから」などと、のんきなことを言っている人がいるが、それはまったくの勘違いだ。アメリカは、ドルが基軸通貨である期間を少しでも長くして、「紙切れの輸出」でモノを買える時代をできるかぎり長くしたいからこそ、中国の成長を鈍化させようとしているのだ。

2016年末時点のGDPランキングではアメリカが中国に7.4兆ドルほどの差をつけて1位だが、成長率を見ればいずれ追いつくだろうことがわかる。このままいけば、それが訪れるのは2040年過ぎだと見られている。

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