「電動カート」は郊外住宅地の新交通になるか 高齢化進む京急沿線の丘陵地で実証実験

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今回の実証実験で使われた電動小型低速車。2時間ごとに交代するために車両は2台用意された(筆者撮影)

実証実験は10日ずつに分け、2つのルートで行われた。1つは急勾配が多く、路線バスの運行頻度が低い「富岡第1地区ルート」(約4.0km)。もう1つは住宅地を隅々まで回りつつ、地域のショッピングセンター「京急ストア能見台店」への買い物の支援も視野に入れた「富岡第3地区ルート」(約5.4km)だ。

ルートの選定にあたっては、横浜国立大学の協力で町内会長や民生委員へのヒアリングおよび住民アンケートを行った。通常、ポスティングによる住民アンケートは回収率が10%程度だというが、関心が特に高い地域では回収率が30%と高いエリアも見られた。

京急の担当者によれば「このエリアは丘陵地で急坂が多く、公共交通整備への関心が高い。また当社が1950年代から整備してきた住宅地であり、しっかりと面倒をみていきたいという思いから今回の実証実験を行う場所として選定した」という。

電動小型低速車の運転台。左ハンドル車で、前の小さなバスケットには位置情報を取得し、乗車人数情報と併せて送信する端末が入る(筆者撮影)

電動小型低速車は最高時速19kmで、今回の実証実験のルートを1周約25~30分で走る。安全確保のため、ハンドルを握るのは京急グループ(京急文庫タクシー株式会社)のタクシー運転士だ。話を聞くと「左ハンドルに違和感があるのと、交差点で曲がるときにパワーが少し足りないと感じるが、細い道を走る際は十分問題がない」という。普通免許で運転可能であり、免許を保有する地域住民が運転することもできる。

カート活用の発端は輪島市

さて、このゴルフ場のカートを利用した電動小型低速車はなぜ生まれたのだろうか。

もともと、この電動カートの活用は石川県輪島市の商工会議所の発案だった。ゴルフ場で電磁誘導により自動で走行するカートを見て、このカートが住宅地を回れば高齢者の外出機会を増やすことができるのではないかという思いから、実用化に動きはじめた。

2011年ごろから社会実験を開始し、2012年からはメーカーとも連携し始めた。壁となっていた公道での走行については、2014年に時速20km未満の走行であれば問題ないという見解が出たことから、ウィンカーやバックミラー、灯火類の取り付けなどを行い、ナンバーを取得して公道での走行を開始。そして2016年から、電磁誘導線を利用した電動小型低速車の自動運転実証実験が開始された。

この取り組みを輪島以外にも広めるべく、今年からは「グリーンスローモビリティ」として、国土交通省の支援を受けながら交通エコモ財団が公募の上、3カ所で実証実験を行う。そこで採択されたのが輪島市、松江市と、横浜市金沢区富岡地区だったのだ。

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