インド・ムンバイのテロが日本企業に与えた衝撃

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 11月26日、インド最大の商業都市ムンバイで起こった同時テロ事件。インドに拠点を構える多くの日本企業は駐在員の帰国を促し、出張を見合わせるなどの対応に追われた。ある商社の駐在員が語る。「例年この時期は日本企業の視察や商談が殺到するのに、予定が真っ白になってしまった」。

ここ数年、日本企業が成長国インドに対して抱く期待は膨らむ一方だった。今年に入ってからも、インド国内にある日本企業の拠点数は300近く増加しており、10月には840拠点に到達。さらに日本企業の進出を促す目的で日本政府が提案した、日印共同のインフラ整備プロジェクトが具体化したばかりだった。今回の事件が、こうした日本企業の投資熱に水を差した可能性も考えられる。

実際に「進出を検討していた企業が計画を延期する例は確かにあった」とジェトロ海外調査部アジア大洋州課の伊藤博敏氏は言う。「だが、決してテロだけが理由ではない」。金融危機の影響はインドも例外ではなく、9月以降の株価指標は6割近く、通貨ルピーも20%以上下落した。おまけに今年前半から加速したインフレに対する金利引き上げが自動車など耐久消費財の買い控えを招いた。「過去5年間で平均8・5%という経済成長率が、テロの影響も含めて今年は7%前後に鈍化する可能性はある」(インド経済に詳しい拓殖大学国際学部の小島眞教授)。

投資姿勢は変わらず

とはいえ、「やはり世界にインドほどの成長が見込める代替国はなく、企業としては見過ごせない」(みずほ総合研究所アジア調査部・酒向浩二主任研究員)。

インドに2工場を構える自動車最大手のマルチ・スズキは「事業継続や投資のスタンスについて現時点では変更はない」(スズキ)。インド製薬最大手を買収した第一三共も「インドビジネスはまだ始まったばかり。拡大施策も変わらない」と言う。7月にジェトロがムンバイに開設したビジネスサポートセンターで進出準備を行う3社からも、今後を不安視する声は特に上がっていないという。

2050年に17億人という世界最大の人口が見込まれている成長国として、中長期的なファンダメンタルズは変わらないとする見方が大半だ。

ただ、これまで日本企業がインド進出のリスクとして挙げていたのはインフラの未整備ばかりで「治安がよく政情不安もないというイメージが浸透しすぎていた」(国際協力銀行国際調査室の牛田晋氏)。パキスタンとの緊張を背景としたこの事件により、新たな地勢的リスクが強くすり込まれたのは確かだ。

(堀越千代、高橋由里、前野裕香 =週刊東洋経済)

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