安息の地か、魔窟か ネットカフェの危うい最新事情

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安息の地か、魔窟か ネットカフェの危うい最新事情

漫画喫茶にゲームやインターネットを複合したネットカフェ。ニュースでその名を聞く機会も増えた。大阪府警は立ち入り検査を実施。厚生労働省は「難民」の実態調査に乗り出す。知られざる業界の内幕を追った。(『週刊東洋経済』2007年6月2日号より)

 東京・歌舞伎町。ネオンが妖しくともる繁華街に、ひときわ異彩を放つ店がある。魚のマンボーをキャラクター化した看板が、いやが応でも行き交う人の目を引く。「まんが喫茶MANBOO!(マンボー)」。ネットカフェの大手である。

 5月中旬の夜9時ごろ。店内には、じゃれ合いながら入店の手続きをする若いカップルの姿が複数あった。「どのタイプにしますか」。20代とおぼしき店員に尋ねられ、3時間パックで900円のコースを選んだ。

 客室のある2階フロアはほの暗く、細い通路を挟んだ両側には10以上の個室が並ぶ。内部は2畳ほどの広さ。リクライニングチェアとパソコンが置かれていた。フラットベッドタイプの部屋もあるそうだ。

 各個室の上部は吹き抜けになっているが、扉を閉めてロックしてしまえば、密室に近い状態になる。利用客はここで、“自由空間”を手にする。隣の個室から若い男性の声がかすかに聞こえてきた。どうやら“出会い系”に電話をしているようだ。

 「難民」の避難場所か それとも犯罪の温床か

 「契約更新のおカネを貯金することができず、アパートを出ざるをえなかった」(24歳男性)--。 労働組合や首都圏青年ユニオンなどは今春、ネットカフェに寝泊りをする、いわゆる「ネットカフェ難民」の実態調査を行った。首都圏を中心に大阪、福岡など19地域、34店舗で調査を実施した結果、26もの店舗で、長期にわたって寝泊りする利用客がいることが判明した。驚くことに3年もの間、各地を渡り歩く例もあったという。

 「ネットカフェ難民」が生まれた背景には、やはり格差問題が横たわっているようだ。

 彼らの多くは、賃金の安い日雇い労働者。路上で寝泊りするホームレスではないが、定住場所を持てない「半ホームレス」だ。アパートなどに入れないのは、家賃が払えないためではない。敷金・礼金など入居時のまとまった資金が用意できないからだ。ネットカフェなら、一晩1500円程度を払えば夜露を避けることができる。シャワー設備もある。

 厚生労働省はこの問題を重視し、今年度中にも実態調査に乗り出すという。ただ、自立生活サポートセンター「もやい」の湯浅誠・事務局長は「政治に対する不信感は根強い。抜本的な対策を打つ姿勢を打ち出さなければ、十分な協力を得るのは難しいのではないか」と指摘する。

 ネットカフェに注目するのは、厚労省だけではない。

 福島県で17歳の男子高校生が母親を殺害し、頭部などを切断した凄惨な事件。高校生は犯行後、ネットカフェに立ち寄っていた。未明に未成年が利用しても怪しまれないのが、ネットカフェの特徴でもある。

 大阪府警は府内のネットカフェ全店に対し、一斉立ち入り検査を行うことを決めた。青少年の育成面で深刻な影響を与える悪質店の一掃を狙っていると見てよい。

 警察はネットカフェを「犯罪の温床」として注視している。2003年、ネットカフェのパソコンを悪用してインターネットに不正アクセスし、他人の銀行口座から多額のカネを詐取する事件が発生した。警察が05年中に認知した不正アクセス行為のうち未検挙のものは277件(06年5月時点)。実にその半分に当たる139件はネットカフェのパソコンを操作して行われたものだった。

 誰もが「匿名」でインターネットを利用できるネットカフェのずさんな管理が犯罪の背景と考える警察は、業界に対して受け付け時の本人確認の徹底を要請している。

 これに対し、有力チェーンで組織される日本複合カフェ協会は、「原則として、全店にユーザーの会員制を採用することを指導している」(若松修顧問)と、業界を覆う不透明感の払拭に懸命だ。とはいえ、零細企業が群雄割拠する業界で、協会加盟は全店の約4割程度。非加盟店は協会の指導に平然とソッポを向く。

 「アウトサイダー」--。警察や業界の関係者は、非加盟店を苦々しくそう呼ぶ。冒頭のマンボーは、その代表的存在である。

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