医療事業に本腰を入れるソニーの死角

収益確保へ、課題はスピード

11月27日、ソニーの医療事業が新たな柱に成長するのか、その動向に注目が集まっている。写真は同社のロゴ。5月撮影(2013年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 27日 ロイター] -ソニー<6758.T>の医療事業が新たな柱に成長するのか、その動向に注目が集まっている。テレビなど従来の稼ぎ頭に収益回復の展望が開けておらず、新事業の「離陸」はソニーの将来を大きく左右する。

同社はデジタル家電で培った独自技術と消費者向け製品の発想を応用し、新規需要の創造を主軸として医療市場の開拓に注力する方針だ。ただ、先進国の高齢化などにより医療事業は成長産業である反面、開発から認可を経て収益を確保するまでに時間もかかる。オリンパス<7733.T>との提携効果も含め、スピードが課題になりそうだ。

光ディスク技術を細胞分析装置に

医療機器はほとんど外国製。日本企業のソニーに安くて操作が簡単な細胞分析装置を作って欲しい――。2007年3月。人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った再生医療研究の第一人者、東京大学医科学研究所の中内啓光教授は、ソニーの社内講演会で技術者約20人を前に訴えた。

細胞分析装置は、血液・免疫・がんなどの研究分野やiPS細胞をはじめ最先端領域でその解析手段となる重要な機器だ。中内教授が長年使っている米国製はサイズが大きく、使い方が複雑なうえに専任オペレーターも必要。約5000万円―1億円と高額で、一部の研究者しか使用していないという実態があった。

細胞の大きさや種類などを識別する装置の仕組みが、高速回転しながら微細な溝に刻まれた情報をレーザー光で読み取るブルーレイなど光ディスクの技術とよく似ていた。ひょっとしたら化けるかもしれない──。

開発が一段落し、新分野の開拓に動いていた光ディスクの部隊も着目。これを機に組織的に分散していた医療関連技術の連携が全社的に進み、医療市場向け事業戦略の検討が加速し始めた。

独自技術で市場開拓

ソニー製装置の販売は堅調だ。同社によれば、自社開発1号機で細胞を解析・分取するセルソーターの受注は、13年に国内で約40台。調査会社の富士経済によると、同年のセルソーター国内市場は100台で、ソニー製は約4割を占める。価格は2000万円前後からで、他社製の半額程度。専任オペレーターも不要で、他社製に比べ約3分の1に小型化し、「従来品では手の届かなかった研究者を新たな顧客として取り込んだ」(医療業界アナリスト)。

細胞分析装置市場は、ベックマン・コールターとべクトン・ディッキンソンの米国企業2社でシェア7割以上を占めるといわれる。その中でソニーは「健闘している。医療分野でもここまでできるということを示す好機」と日本総研社会・産業デザイン事業部の木下輝彦ディレクターは話す。ソニーでは同装置の世界市場が今後3年間で1500億円、年率10%で成長すると予想。2年以内に海外でも展開し、シェア3割以上を狙う。

京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞研究でノーベル賞を受賞後、日本でも政府が研究費用の補助金を増額し、再生医療分野の産業化が加速。医薬品や化粧品などの開発でも細胞培養技術を利用した研究が活発化している。

経済産業省は細胞分析装置や試薬など再生医療周辺産業の世界市場が12年の2400億円から20年に1.1兆円、30年には5.2兆円に拡大すると予測する。

買収は技術を生かせることが前提

細胞分析装置などライフサイエンス部門全体の売上高は、まだ数十億円規模。だが、20年には医療事業全体で2000億円、その3分の1を占める600億円以上を目指す。「挑戦的な目標だが、やってできないレベルでもない」とライフサイエンス部門の日高靖浩・MK課統括課長は意欲を見せる。細胞分析のほか血液検査の装置など「いくつか仕込んでいる」という。

一方、買収による収益上乗せには否定的だ。現時点で具体的な案件はないが、「ビジネス的に可能性があり、これから伸びそうというだけでスタートアップの会社をポンと買うことはしない」(日高氏)。10年以降に細胞分析ベンチャーの米アイサイト、検査診断機器メーカーのマイクロニクスを買収したが、あくまで未知の領域のノウハウを学ぶのが目的。ソニーの技術を生かすための買収なら、今後も可能性はありそうだ。

日本総研の木下氏は、ソニーが内視鏡で実績のあるオリンパスと提携し、再生医療分野に打って出たことに対し「目の付け所が良い」と評価する。テレビの事業規模約5800億円(12年度実績)に対し、医療事業は半分にも満たないが、「一般的に医療機器の利益率は20―30%。デジタル家電に比べて格段に上」で、小規模でも利益貢献は可能という。

事業化までの長い道のり

先行メーカーの存在感が大きい医療機器業界は、新規参入が難しい。一般的に医療機器は医師が研修医時代から使い慣れたものを選ぶ傾向がある上、研究者もデータの継続性から同じメーカーを使い続けることが多いためだ。開発や認可にも時間がかかる。外科内視鏡でのオリンパスとの共同開発品も出荷まで4年はかかるとみられており、「スピード感に欠ける」(証券アナリスト)との指摘もある。

事業化への道のりも長い。まず「種」を見つけるのが至難の業だ。先の講演会も当時、業務用の放送・医療機器などを統括するB&P事業本部・ビジネス戦略部長だった西和田健二氏(現在は定年退職、環境試験機メーカー勤務)と中高時代の友人だった中内教授が、05年の同期会で偶然話したのがきっかけだった。

2000年代前半、技術での差別化が難しくなるデジタル時代が進み、社内でもデジタル家電の将来への懸念から業務用事業の拡大を模索していたが、細胞分析装置への「気づき」はある意味、偶然の産物ともいえる。その後も市場性を見極めるための医師との手探り作業が続く。

ようやく市場に出ても厳しい競争が待ち受ける。米ゼネラル・エレクトリック傘下のGEヘルスケアもライフサイエンス分野を強化しており、11月には割安で高性能な細胞分析装置を日本で初投入した。

ソニーはこれまで中長期的な医療事業の売上高目標として1000億円を掲げてきたが、現在は数百億円程度。「本業が悪くなるたびに医療強化と言ってきたが、あまり変わっていない」(証券アナリスト)との声もある。

長年の悲願

だが、ソニーは医療事業の強化を打ち出した。長年の悲願だからだ。オリンパスへの出資は、11年秋に発覚した不祥事をきっかけに実現したように見えるが、実は「もっとずっと前からラブコールを送り続けていた」(ソニー幹部)。

2000年代前半には、買収額が高過ぎて社内検討の段階で終わった「幻のオリンパス買収計画」も存在した。ソニーは今回、内視鏡の投入に合わせ、モニターなど周辺機器販売をはじめ、病院内の映像機器をネットワークでつないだシステム納入も考えている。

今年10月末、テレビやパソコンなどの販売不振で今期の連結純利益予想を従来の500億円から300億円に下方修正した。エレクトロニクス事業の黒字額は期初の1000億円から数百億円規模に下振れる見通しだ。収益の下支えとして医療事業の成長は待ったなしだ。「医療強化」に首をかしげる市場関係者を振り向かせることができるか。今ソニーの本気度が試されようとしている。

(白木真紀、取材協力:村井令二 編集:田巻一彦)

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