日本の緩い企業SNSが米国でありえないワケ 「不遇な立場」にあるアメリカのSNS担当者

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一方、アメリカ企業では、ソーシャルメディアのアカウント運営そのものを、広報代理店や、専門業者にアウトソースしているケースが少なくない。もちろんソーシャルメディアは、顧客と距離感なくコミュニケーションを取ることのできるチャネルであることから、内製化による運営をしたほうがいいという声は強くある。「内製化vs.アウトソース」の議論は、それこそ今でも頻繁に行われているが、結局は内製化を諦め、外部に委託する企業が、この1〜2年で増えてきているのが現状だ。

急速にアウトソース化が進んでいる背景には、“中の人”の人材不足がある。それは、ポジションそのものに”魅力がなくなっている”からだ。ソーシャルメディア担当者は、いろいろなユーザーと(ときには誹謗中傷を数多く受けながら)同時に会話を行い、決して怒らず、気の利いたユーモアをひねり出し――と、業務内容はなかなかにタフだ。

だが、ビジネス上、その効果が出ているかどうかが、なかなか評価されず、サラリーもほとんど上がらない。アメリカのマーケティング系職種の給与相場を見ると、いわゆるマーケティング担当者とソーシャルメディア担当者との間には、約1.5倍の開きがある。つまり金銭的に割に合わないのだ。

アメリカ企業のSNSが「保守的」な理由

こういった状況に加え、企業を見る消費者の目が、ますます厳しくなっている。少しでも“度が過ぎている”コミュニケーションだと見られてしまったら、すぐに非難が集中することは、想像に難くない。企業も自らのブランドや評判をあえて下げるようなリスクは冒したくないため、代理店や専門業者にアウトソースする方向にシフトしてきている。

しかし、これはある意味自然な流れなのかもしれない。アメリカ内の消費者を対象にした調査を片っ端から眺めてみても、企業から発信される情報として求められているのは、基本的には商品やサービスの情報だ。そして、それが安くあるいは手軽に手に入る情報、つまり消費者にとって役に立つ情報しか求められていないし、こういった情報を提供するのに、あえて“中の人”を用意する必要はない。

もちろん日本では、こういった動きにはなっていかないだろう。“軟式アカウント”は、これからも存在していくだろうし、“中の人”もいなくなることはないだろう。だが、業務内容のタフさや、金銭的に割に合わない部分は日本もアメリカも変わらないだろうし、ブランドや評判に対するリスクを真剣に考えていくことは非常に重要だ。今も一定の頻度で“中の人”の暴走や勇み足で炎上が起こる中、そのあり方を再考するタイミングが来ているのかもしれない。

熊村 剛輔 セールスフォース・ジャパン DX ビジネスコンサルティング ディレクター

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くまむら ごうすけ / Gosuke Kumamura

1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、大手ソフトウエア企業のウェブサイト統括とソーシャルメディアマーケティング戦略をリード。その後広報代理店のリードデジタルストラテジストおよびアパレルブランドにおいて日本・韓国のデジタルマーケティングを統括後、クラウドサービスベンダーにてエバンジェリストとなり現在に至る。

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