つぼ八が「やまや」の軍門に下った切実な事情 居酒屋チェーンのM&A再編が活発化する理由

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マルシェの主力ブランドである炭火焼き鳥チェーン店「八剣伝」は、最激戦区の焼き鳥業態ということもあって苦戦し、退店が続いていた。また大衆居酒屋「酔虎伝」、鉄板料理居酒屋「居心伝」も業態が陳腐化し、競争力を失っている。

ちなみにチムニーのマルシェへの出資額は8億円弱。チムニーは、老舗居酒屋チェーン「マルシェ」の創業者で筆頭株主の谷垣忠成氏から発行済み株式の約11.2%を取得した。11・2%にとどめたのはマルシェの直営・FC店舗の経営状況をよく把握したうえで、次の手を打つ考えだからだ。

チムニーとの提携でマルシェの業績が回復すれば、チムニーがTOB(株式公開買い付け)で買収する可能性が高い。そうなれば、店舗数1200店を超す巨大居酒屋チェーンが誕生することになる。

やまや・チムニーグループにとってはマルシェとの提携によって、当面、食材の相互供給や共同購買によるコスト削減、販路の拡大や、人材不足が深刻化する中で人材が確保できるなどのメリットなどが期待できた。

マルシェとつぼ八には共通点がある

今回、つぼ八を買収したやまや・チムニーグループ。

マルシェもつぼ八もFC比率が高く、本部の売上高が小さいことが共通点だ。ちなみにマルシェの2019年3月期の売上高見通しは90億円、つぼ八の2018年3月期の業績は売上高75億7500万円(前年対比5・6%減)、営業利益1億1800万円(同24・8%減)となっている。

今後、マルシェやつぼ八と連携し、業績アップを図るキーマンはチムニー社長の和泉學氏だ。和泉氏は1990年、会長の岡田卓也氏(当時)の命令で、ジャスコ(現イオン)の子会社だったチムニーの再建社長に就いた。

その後食肉加工の米久に売却されるなど、筆頭株主が次々に代わるなか、米投資会社のカーライル・グループと提携、MBO(経営陣が参加する買収)を実施し、経営改革を進めた。2012年12月には再上場を果たしている。和泉をよく知る日本フードサービス協会(JF)顧問の加藤一隆氏は、こう話す。

「和泉さんは講演などを聞いていても、ステークホルダーなどに気を遣いながら話す慎重な人です。サラリーマン経営者ではあるが、創業者的精神にあふれた人物です。M&Aで経営規模が大きくなっても人材教育面などで能力を発揮し、居酒屋業界のトップになるという夢を実現していくと思います」

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