IMFが果たす役割は融資の拡大ではない


 先進国から発展途上国に広がった国際金融危機は、ベネズエラやロシア、アルゼンチンといった国にダメージを与えただけではない。マクロ経済的な安定の達成に向かって努力を続けていたブラジルや韓国、南アフリカなどの国にも大きな打撃を与えた。そのため、世界の金融システムの将来について議論するため11月14~15日にワシントンで開催されたG20の首脳会議で、急きょ、IMF(国際通貨基金)改革が最大の検討課題となった。

その少し前まで、IMFはユーロ中心の世界の政治的な代弁者であるとか、あるいはその役割があいまいな国際的な融資機関であるというイメージを払拭できず、国際社会では軽蔑の目で見られてきた。だが突然、IMFは発展途上国の株式や債券の下落を引き起こしている悪循環を阻止することができる唯一の機関として、舞台の中央に躍り出たのである。

IMFは約2500億ドルの融資資金しか持たず、その程度の額ではとても途上国の市場からの資金流失を阻止することはできない。しかし、それでも国際金融危機の次の段階で指導的な役割を果たす準備ができていることを、世界の指導者は喜ぶべきである。発展途上国の企業が単独で、今後12カ月間に返済期日が到来する数千億ドルの資金を調達することは不可能であるし、金融市場が安定しないかぎり、途上国政府も保有外貨準備だけで必要な資金を賄うことはできない。

米国のバーナンキFRB議長と違い、ほとんどの途上国の中央銀行総裁は、金利や為替相場にブーメラン効果を及ぼすことなしに単独で通貨供給量を増やせる立場にはない(もっとも、米国にしても現在の混乱が収まり、通貨供給と債務が膨大に膨れ上がっていることが明らかになったとき、はたしてどうなるかはわからないが)。

しかし、多くの人々が提案しているように、現在の組織をそのままにしておき、貸し出し能力を大幅に拡大してIMFを巨大化させると、大きな間違いを犯すことになるだろう。むしろ単にIMFが他の貸し手に取って代わって融資するのではなく、先進国の貸し手と途上国の借り手の間の仲介者としてその役割を強化すべきである。

目指すべきIMF改革の方向

IMF改革の骨子は、【1】欧州の代表権を低下させ、アジアの代表権を高めることでガバナンスを改善する、【2】IMFの使命を、救済資金を直接提供するのではなく、加盟国の経済状況の監視と経済政策の監督に集中させる、という2点である。一般的な意見とは逆に、今こそこうした改革を行うときである。先進国の政府は中央銀行と協力して、発展途上国への取り付けを阻止するために必要な巨額の資金を提供すべきである。そしてIMFの主な役割を監視機能に置くべきである。

IMFは独自の通貨を持たないため、中央銀行のような“最後の貸し手”としての大きな権限を持って市場に介入する立場にはない。だが、理論的にはIMFに通貨発行権限を与えることは可能だし、すでに特別引き出し権という独自の会計単位を持っている。しかし、十分な国際的ガバナンスの制度が確立していない状況でIMFに通貨発行を認めることは非現実的である。加盟国の間で一体感があるユーロ圏でさえ、欧州中央銀行を“最後の貸し手”としてどう活用すべきか意見が分かれているほどである。

IMFの資金量はこの50年間に世界の貿易や所得の拡大に比べれば相対的には大きく減少している。だからといって、IMFの資金を1兆ドル以上に増やすことは現実的な選択肢ではない。そもそもIMFは、巨額の融資が必要な大規模な債務不履行を処理する十分な枠組みを持っていない。さらに短期的な流動性の問題に直面している国と返済不能に陥っている国を峻別する、政治的な能力も持ち合わせていない。

では世界の指導者はIMFをどうすればいいのであろうか。短期的にはIMFは途上国の経済的、政治的安定を維持する支援を行うために、米国や日本、中国などから追加的な調達を行うことができるだろう。FRBはすでに韓国やブラジル、メキシコ、シンガポールに300億ドルを提供することを明らかにしている。

またIMFは、BIS(国際決済銀行)と同様に黒字国の外貨準備の運用を支援する役割も果たすことができる。世界の指導者は、IMFが監督機能や監視機能を発揮するために、保有する金を売却することで必要な資金を調達することを認めることはできる。そうした機能が強化されれば、将来、IMFは形だけの仕事を続けるためだけに緊急融資をする必要がなくなるだろう。

長期的な観点からIMFの融資を増やすというのは魅力的だが、それは世界にとっても、IMFにとっても戦略的に間違いである。先進国は中国や中東産油国と協力して途上国市場を救済するために大胆な対策を講じるべきであり、IMFにも果たすべき重要な役割がある。しかしガバナンスの改善なしにIMFの規模を拡大しても、世界にとってはありがた迷惑である。

ケネス・ロゴフ
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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