トランプよりヤバいアメリカ最高裁「保守化」 アメリカ人が本当に恐れているのはこっち

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結局、カバノー氏が判事に就任し、リベラル4人、保守5人となったわけだが、リベラルが頭を抱えるのは、カバノー氏も53歳と若く、ゴーサッチ氏同様、今後20年以上、実質的にアメリカ政治に影響を及ぼす立場に就いたということだ。

ちなみにリベラル判事が多い時代には、リベラル優位な政策が多数認められた。2016年5月に最高裁が合憲とした「同性婚」などは、特にその象徴だろう。しかし、現在の最高判事比率は保守派が一人多い。保守派がこの機に、悲願ともいうべき人工中絶を違憲にする動きに出ることは予測しやすいと言える。

トランプ大統領の暴走を止められるのは最高裁だけ

トランプ大統領にしても、前回の大統領選挙中から保守へのアピールとして「自分が大統領になったら人工中絶を取り下げる判事を任命する」と公言していたこともあり、2年後の再選への切り札として、彼自身が積極的に中絶合憲を取り下げる動きに出るのではとも見られている。

この動きへの懸念の声が大きい理由は、民主主義が根本から崩れるからだ。そもそもトランプ大統領は大統領令を出しまくり、大事な政策であっても議会との事前打ち合わせや、内容調整をしないことで有名だ。こうした暴走を最終的に止められるのは、最高裁判事だけである。それを止める人がいなくなったら、この国はどうなってしまうのだろう。

現在、リベラル派判事のルース・ギンズバーグ氏が85歳という高齢で、いつ引退してもおかしくないと言われている状況にある。しかもなんとその彼女が、中間選挙後に助骨を3本折るケガをしてしまった。

万一、同氏がこのケガが引き金となりトランプ政権下で引退すれば、次期判事を指名するのはトランプ大統領となる。彼は保守派判事を指名するだろうし、大統領が指名した判事を承認するのは、上院だ。その上院は今回の選挙でも共和党が勝利しており、過半数を占めている(ちなみに最高裁判事承認は、その過半数が必要なだけだ)。ギンズバーク氏の後釜が保守派になった途端、最高裁の判事構成はかつてないほど、保守優位になってしまうのだ。

そんなわけで、ギンズバーグ氏が元気で健康のまま判事を続け、トランプ政権下では引退してほしくないと口にする人は、リベラル派はもとより、中道派の人々の間では非常に多い。冗談のように聞こえるかもしれないが、彼女のケガのニュースが飛び込んだ途端、ソーシャルメディアは、彼女の回復を祈るような投稿があふれかえっていた。政権が変わるよりも怖いのは、民主主義が成り立たなくなることだと、みな、口々に話している。

こうした材料を踏まえて考えると、リベラル派がいくら努力しても、トランプ大統領にとって有利な札が多いのではと思えてしまう。メディアは2年後の大統領選に焦点を切り替えてトランプ大統領の再選を防ごうと躍起になるのだろうが、果たしてそれはうまくいくだろうか。何となく、まだトランプ大統領には追い風が吹いているように思えてならない。個人的にはトランプ氏が次期も大統領に再選するのではと睨んでいる。

ジュンコ・グッドイヤー Agentic LLC代表、Generativity Lab代表

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Junko Goodyear

アメリカ在住。青山学院大学卒業。日本にて約20年の企業経営のち、現職。日本企業のアメリカ進出、アメリカ企業の日本進出のコンサルテーション&サポートほかを行っている。シアトル近郊最大の子供劇団のひとつ『Kitsap Children’s Musical Theatre』顧問を務めながら、次世代継承と・社会還元共有型マーケティングを考える『ジェネラティビティ・ラボ』も主宰している。

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