「高齢者は75歳以上」に定義し直す時が来た 「未来の年表」著者・河合雅司氏に聞く<後編>

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河合:良くも悪くも「生涯現役」を“当たり前”のこととして考えざるをえなくなるでしょうね。しばしば講演先で「老後生活にお金がいくらあれば安心か」と聞かれます。書店に並んでいる書籍には「5000万円あれば安心」とか、「1億円は必要だ」とかと書かれていますが、私は「いくらお金があっても安心できない社会がくる」と答えるようにしています。今年の春先に“引っ越し難民”が話題になりました。お金を積んでも、希望日に引っ越せなかった人が続出したことを覚えている人も多いと思います。これは一過性のことではないでしょう。

少子化が進めば、たとえ1億円のお金があっても、現在ならば普通に享受できているサービスが受けられなくなるわけです。また、お金をいくら払っても買えないものが出てくるでしょう。お金などいくらあっても欲しいものが手に入らなくなるのですから、ある意味、「安心な老後」などというものは存在しなくなるかもしれませんね。

「戦略的に縮む」方策を考えよ

中原:これからの人口推計を見ると暗い気持ちになってしまうのですが、実は「高齢者」の定義を今の65歳以上から75歳以上に引き上げれば、決して悲観一色になることはないと思っています。今の65歳は一昔前とは異なり、健康で若々しい人が多い。これは政府も考えていることだと思いますが、高齢者の定義は75歳以上に変わっていく流れにあるといえるでしょう。

仮に、高齢者が75歳以上となればどうなるのか。2020年の65歳以上の人口は3619万人、人口に占める割合は29%になります。2040年と2060年の65歳以上の人口はそれぞれ3921万人、3540万人となり、人口に占める割合もそれぞれ35%、38%に上がっていきます。

これに対して、2040年と2060年の75歳以上の人口はそれぞれ2239万人、2387万人となり、人口に占める割合は20%、26%になると推計されています。要するに「高齢者は75歳以上」とすれば、2040年と2060年の高齢者の人口と比率は現在よりも改善するわけです。

財政上の収支の面からも、社会保障制度の維持という点からも、そして経済規模の維持という点からも、これからは高齢者の力を生かす仕組みが出来上がっていくことを期待したいです。ですから、今までの世界の歴史の中で日本は未曽有の少子高齢化が進む社会になるとはいっても、私は人口減少そのものを絶望的にとらえたくはありませんし、日本人が将来に絶望しないためには何をすべきかを、強く訴えていきたいです。

『未来の年表2;人口減少日本であなたに起きること』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

河合:残念ながら、少子化対策が多少うまくいったとしても出生数は回復しません。今後は若い女性が減っていきますので、子供がたくさん生まれる国に戻るには100年か、それ以上の時間を要するかもしれません。相当の期間、日本の少子化も人口減少も止まることはないと、私どもは覚悟する必要があります。

だからといって、立ち止まってはいられません。減るなら減るなりに社会が機能し、経済成長できるよう、われわれのほうが社会や産業構造をつくり変えればよいのです。私は拙著『未来の年表』において、「戦略的に縮もう」と提言しました。人口減少問題を必要以上に不安に思うのは、現在の社会のサイズやこれまでの成功の方程式を維持しようとするからです。無理に無理を重ねても、早晩行き詰まるでしょう。

このまま目先の成功を求めて、万遍なく社会が縮んでいくことを許したら、間違いなく日本は衰退します。そうならないためには、日本に余力が残っている今のうちに、少ない人手でサービスを維持できるコンパクトでスマートな国へと変わることです。

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