徴用工判決の「放置」は日韓関係を泥沼にする 文大統領は金大中氏の功績を無にするのか

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そういう意味では今回の大法院の判決は、こうした外交的資産を吹き飛ばしてしまうような内容である。

判決文を読むと、大法院の多数意見の論理は以下のような論理構成になっている。

[元徴用工らが求めているのは、未支給賃金や補償金ではなく、日本の不法な植民地支配や侵略と直結した日本企業の反人道的な強制動員に対する慰謝料だ。請求権協定の過程で日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員の法的賠償も否認している。そして、日韓請求権協定は、植民地支配の不法性にまったく言及していない。したがって不法な強制動員に対する慰謝料請求権は、「完全かつ最終的に解決」したとされる請求権協定には含まれていない。だから、日本企業は元徴用工に慰謝料を支払うべきである。]

つまり、元徴用工の慰謝料請求権というのは、すでに決着している日韓請求権協定の枠外の話であるから、認められるべきものであるという理屈だ。日本企業の賠償責任を認めるために無理やり作り出した理屈という印象がぬぐえない筋立てとなっている。

河野外相が求めた「適切な措置」とは?

植民地支配をもたらした1910年の「日韓併合条約」が合法か違法かは日韓の間で激しく論争され、結論が出なかった問題である。一致点が見いだせないからと言って国交正常化しないというわけにはいかない。結局、日韓基本条約では「大日本帝国と大韓帝国の間で締結されたすべての条約、協定はもはや無効である」というあいまいな表現で落ち着いた。これも先人たちの知恵である。

今回の判決はこの問題を蒸し返した。「植民地支配は不法である」と言えば、韓国国内では非常にウケがいい。日本に不満を持つ人たちは高く評価するだろう。

それでは日韓の溝はますます深くなるだけである。むろん日韓両国政府はそんな事態にならないよう取り組むだろうが、その道は極めて厳しいものと言わざるを得ない。

河野太郎外相は判決当日、「大臣談話」を公表した。そこでは、判決を「断じて受け入れることはできない」と強く批判した。同時に韓国政府に「適切な措置を講ずることを強く求める」と訴えた。

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