「妊娠中絶後進国」の日本女性に感じる哀れさ 「性と生殖の権利」について知っていますか?

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この薬を日本で探さなければならなかったフランス人女性は、自分の経験をこう振り返る。「フランスではドラッグストアに行って、事後経口避妊薬を10ユーロ(約1300円)未満で購入できる。でも、東京ではまずその薬を処方してもよいという医者を探さなければならなかった。男性医師は無礼で無神経で、彼は私にその薬を服用しないよう説得しようとした。それからドラッグストアに行ったが、5000円ほどの出費になってしまった」。

出産に関しても、日本の女性はいまだに金を払い、しかも身体的に苦しまなくてはならない。大半の女性は、子どもをより愛するには苦しむべきだいう奇妙で酷い作り話に影響されて生きている。日本で麻酔を受けて出産する女性はたった5%である。フランスでは無料かつ無痛で手に入るものが、日本では広尾のような上流層が住む地域のクリニックに通う裕福で学歴の高い女性にしか手に入れられないのだ。

日本での中絶はギャンブルと同じ

また、日本では中絶はギャンブルと同じ偽善を抱えている。つまり、両者とも違法なのだが、あまりにも例外が広まっているため、実質上認められているのだ。妊娠中絶は、1880年の刑法での法制化以来ずっと犯罪なのである。中絶処置を受けた女性は最大1年の懲役、行った医師には最大2年の懲役が科せられる。

しかし同時に、中絶は1949年に法制化されている。恐ろしいことにその理由の1つは、遺伝的に劣っていると考えられる胎児の出産を抑制するためであり、また1つには国が戦争の痛みで揺らいでいる時期に、過剰な出生を抑えるためであった。

それ以来妊娠中絶は一部のケースで認められてきたが、最も重要なのは経済的な理由が認められていることだ。母体保護法に書かれた「経済的な理由」の一節があれば、妊娠中絶を望むほとんどすべての女性は実質上中絶を認められる。

皮肉なことに、1950年代のフランスの女性たちが中絶手術を受けるために日本にやって来たのは、母国では不可能だったからだ。今日、日本におけるほぼすべての妊娠中絶(NGOのSOSHIRENによると98%)が経済的な理由で行われている。

2015年には出産100万5677件に対し、中絶は17万6388件だった。だがそれは、妊娠件数の17%が中絶に終わっているということを意味する。だが、中絶はいまだに時代遅れの外科手術の方法でしか行われていない。外科手術を必要としない、より苦痛の少ない中絶を可能にする経口妊娠中絶薬薬は、まだ日本の厚生労働省に認可されていないのだ。経口妊娠中絶薬はすべての先進国、それに発展途上国の多くでも認可されている。

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