上越新幹線「新潟空港乗り入れ」は実現するか 地元で高まる「空港延伸」「羽越新幹線」の期待

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人口流出に歯止めをかけようと、沿線自治体も動き出した。新潟県湯沢町は移住定住促進策として、上越新幹線の通勤定期券を購入し、越後湯沢駅から通勤する町民に対して、一定の要件を満たすことを条件として、定期券購入費用から通勤手当等を控除した額の2分の1に相当する額(1月上限5万円)を最大10年間補助する制度を設けた。

JR東日本と関係自治体が連携して上越新幹線の利用促進を図る必要性は今後も減ることはないが、沿線人口の減少などにより打つ手は限られていることも確かだ。

空港延伸と羽越新幹線、なぜ必要?

上越新幹線の新潟空港延伸と羽越新幹線の実現への期待感の高まりは、同新幹線を取り巻く厳しい環境への危機感の裏返しでもある。

石崎議員は「3つの観点から上越新幹線の新潟空港延伸と羽越新幹線が必要だ」と前置きし、「1つ目は、首都圏での大災害時における首都機能の補完や、悪天候等の首都圏空港着陸不能時の代替空港の役割強化と国土強靭化のためのネットワーク強化の観点。2つ目は、2020年の訪日外国人4000万人の目標実現に向けてキャパシティの限界を迎えつつある羽田・成田両空港の混雑緩和機能の強化の観点。そして、3つ目は、2030年冬季オリンピック・パラリンピックの開催が見込まれる新潟へのアクセス向上の観点。これら3つの観点から2つのプロジェクトの実現が必要だ」と説明する。

さらに、「スノーリゾートとしての発展が期待される新潟の一層の活性化や観光振興につながるだけでなく、群馬・埼玉県をはじめ、近隣県民にも新潟空港の利用の恩恵を見込むことができる」(石崎議員)ことも強調する。

新潟市中心部を流れる信濃川に架かる萬代橋(筆者撮影)

折しも、9月26日、三越伊勢丹ホールディングスは「三越新潟店」を2020年3月に閉店すると発表した。同店が立地する新潟市古町地区では商業施設の撤退が相次いでいるが、三越の閉店が同地区の衰退にさらに拍車をかけることが懸念されている。

新潟県の来訪者増加の行方を左右する新潟市中心部の再生のためにも、上越新幹線の2つの巨大プロジェクトに期待がかかるが、巨額の整備費の財源をどのように捻出し、採算性をクリアするのかは大きな課題として残る。

9月28日に投開票された新潟市長選では、羽越新幹線の整備と上越新幹線新潟空港延伸を公約に掲げ、自民党の支持を受けた中原八一氏が当選した。新潟県知事選に続いて、賛成派の新潟市長の誕生で、両プロジェクトに改めて注目が集まりそうだ。

実現へのカギは、関係自治体と鉄道事業者をはじめとするステークホルダーが、財源や採算性の問題を超えるメリットを見いだして、ともに前向きに取り組めるかにかかっている。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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