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クレメモの乱発と航空機含み損の関係

状況がこれだけ厳しさを増しているのは、収益力改善の鈍さが原因だ。06年度決算で日本航空は229億円の営業黒字に転換した。2月に策定した2010年度までの「再生中期プラン」を上回る水準だ。だが、これは年金の代行返上益という特殊要因によるもので、実質赤字だった。

再生プランでは最終年度に営業利益を880億円に引き上げる目標を掲げる。しかし、06年度決算では新日本監査法人の指摘で、繰延税金資産の大幅な取り崩しを強いられ、162億円の最終赤字となった。人件費削減を中心とする今後の収益改善策を疑問視されたためだろう。

さらに重大な問題もある。バランスシートが実際には相当傷んでいる可能性が高いのだ。「機材価格の簿価が高いことは深刻な経営問題」(航空機業界関係者)だという。これは過去に行った「クレジットメモ(通称・クレメモ)」の乱発と密接に関係している。

機材購入の値引き交渉には2通りある。一つは現金価格を値引く方式。もう一つは、現金価格を据え置く代わりに値引き分としてメーカーからクレメモを受け取る方式だ。クレメモとは、航空機業界特有の商慣習で、一種の金券のようなもの。航空会社は機体導入後、クレメモを使ってスペアパーツなどを購入する。

両方式で実質購入価格が同じであっても、その後の会計処理は大きく異なる。たとえば100億円の機材を20億円の値引きで購入する場合、現金値引きだと、資産計上額(=その後の減価償却額)は80億円。ところが、クレメモ方式だと、計上額は値引き前の100億円となる。差額はどうするかというと、権利行使時期とは無関係に、「機材関連報奨額」との名目で営業外利益に一括計上することが可能なのだ。

過去の業績はこのクレメモでカサ上げされてきた。特に日本エアシステムと統合後の3年間は「B777」の大量購入により機材関連報奨額が約1200億円にも上った。前述のように、クレメモの乱発は高簿価を招いてしまう。航空機には中古機市場があり、簿価がその相場より高ければ、差額はいわば含み損になる。

保有機材で最大の簿価を占めるのは大型機「B747-400」で実に3061億円。また、「A300-600R」も693億円に上る(以上、06年3月末)。機数から算出した1機当たりの平均簿価は約75億円および約39億円だ。ところがリース業界関係者によると、中古機価格はおおむね約37億円と十数億円程度で、ほぼ半分の水準。これらだけで含み損は1500億円を軽く超える可能性がある。実際に機体を売却すれば、多額の部品処分損も出る。

このところの原油高騰を受けて、航空会社は燃費のよい中小型の新鋭機へ入れ替えを進めている。だが、収益力が低い日本航空はそのペースが緩慢だ。再生プランでは790億円の処分損を見込むが、退役する大型機は16機のみ。国際線の大型機比率は約4割に高止まりする。含み損と同様の問題は近年多用しているファイナンスリースでも起きる。クレメモによる高簿価は割高なリース料として跳ね返るからだ。現在、リース債務は4069億円にも上る。

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