人手も機材も不足、「北陸新幹線延伸」の現状 金沢―敦賀2022年度開業へ「工事急ピッチ」

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福井市からやや南下した越前市武生では、武生トンネル工事が最盛期を迎えている。花こう岩で形成された硬い岩盤をダイナマイトで砕きながら掘り進む。1日おおむね4回発破(爆破)が行われ、進む距離はおよそ4m。じりじりと前身しつつ、総延長約2.4kmのうち今月中旬時点で1.5km地点まで到達した。「地質が変わったり、途中で水が出てきたりすると大変だ」(唐戸裕二所長)。トンネル近くの工事現場には、これまで破壊した岩盤の瓦礫(ズリ)がうずたかく積もり、山ができていた。これらは道路舗装用の資材などに再利用されていく。

武生トンネル入口。内部はひんやりとしてるが、夏場は暑さとの戦いだ(記者撮影)

トンネル工事で欠かせないのが安全対策だ。トンネル坑内ではヘルメットや反射帯、防塵マスクなどの装着が必須。掘削地点までは車で向かうが、トンネル入口からはハザードランプを点灯し、時速10~20kmで時折クラクションを鳴らす慎重ぶりだ。頭上には人が入れるほど巨大な送風管が走り、換気のため常に外の空気を送り込む。だが今年のような熱波に見舞われた年には、トンネル内の高い湿度も相まって熱中症で倒れる作業員も少なくない。

このほか、工事に関わる悩みは多い。その筆頭が地域住民との付き合い方だ。ダイナマイトでの爆破による騒音のほか、重機が動く際に地面に伝わる振動でもクレームが飛んでくる。工事事務所の用地や資材の置き場所のため、土地を借りることもゼネコンの仕事だ。地域住民の理解なくして工事は進められない、と現場所長は口をそろえる。

働き方改革はしたいけれど…

北陸新幹線「E/W7系」(記者撮影)

工事だけでなく、発注者や下請け業者、地元住民との調整役も担うゼネコンにとり、残業や休日出勤は日常茶飯事。おかげで建設業では「週休2日」の実現が最優先課題となっている。今回訪れた現場を含め、4週5休(1カ月で休みが5日=週休2日は1週のみ)や4週6休という建設現場はまだまだ残る。「休日は増やしたいが、工期を考えると厳しい」(ある現場所長)。

工事が終わるまであと2~3年。それぞれの現場は、今日も降りかかる難題と闘いつつ、北陸の大動脈を作り続けている。数え切れない泥臭い作業が新幹線という夢を支えている。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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