やはり泣くのは非正社員、吹き荒れる「派遣切り」の嵐
「10月に入って急激に仕事が減った。年末の見通しはまるで立たない」。日雇い派遣で働く藤野雅巳さん(39)はため息をつく。藤野さんは日雇い派遣最大手のグッドウィルに登録して働いてきたが、同社は今年7月末に廃業。その後は同業のフルキャストで主に仕事を得ていたが、同社も2度目の事業停止命令を受け、来年9月をメドに日雇い派遣から撤退すると発表した。
大手2社の立て続けの不祥事発覚と景気低迷を受け、日雇い派遣市場は大幅に縮小している。2007年夏には1日当たり約5万人が派遣されていたが、今夏は約1万人に激減。限られたパイの奪い合いとなり、労働条件は悪化の一途だ。
「日給7000円程度で、アルコール臭がきつく毎日何人も倒れるような現場や、最低15人は必要な棚卸しの仕事を素人4人でこなすように命じられたりする」と千葉県の20代の女性スタッフは語る。
セーフティネットが事実上存在しないのも条件悪化の一因だ。昨年9月に派遣労働者にも日雇い雇用保険が適用されるようになったが、使い勝手の悪さと周知不足でこれまでの利用者はわずか4人。明日の仕事がなければたちまち生活破綻となりかねない、そんな日雇い派遣の危うさは何ら解消されていない。
グッドウィル、フルキャスト以外の日雇い派遣会社は、実はさらに問題が多い。「就業条件明示書を出さないどころか、どこで働くのかすら実際行ってみるまでわからない業者もある」と神奈川の女性スタッフはいう。「未登録者の派遣や事前面接、高額なペナルティなど違法が横行している。指摘すると『ウチはグッドウィルみたいな大手ではないから』などと開き直られた」(同)。
念願の直接雇用でも容赦のない雇い止め
日雇い派遣の労働環境悪化の背景には、製造業の大減産がある。「日雇い派遣の大口顧客は倉庫や物流。減産で物流の仕事が減るだけでなく、製造業の仕事を失った派遣スタッフが日雇い派遣市場に流入している。ダブルパンチで需給バランスが大きく崩れている」と、派遣ユニオンの関根秀一郎書記長は解説する。
実際、製造業での「派遣・期間工切り」は一気に進んでいる。トヨタ自動車は業績悪化を理由に、年初には約9000人いた期間工を来年3月までに3000人程度まで減らす方針だ。「実はトヨタ本体より子会社、孫会社のほうが先行しており、仕事も住まいも失った派遣スタッフからの労働相談が激増している」と、愛知県労働組合連合会の榑松(くれまつ)佐一事務局長は地元の実情を語る。
「あまりに突然で理不尽な話に、怒りを通り越してあきれている」。トヨタ自動車の孫会社、自動車部品製造のジェコーで期間工として働く安田美貴さん(仮名、29)は10月23日、同社取締役から勤怠が悪いことを理由に雇い止めを告げられた。契約終了のわずか3日前の事だった。
安田さんは01年5月から請負労働者として同社の夜勤専属で働き続けてきた。偽装請負を告発し、昨年9月から同社直接雇用の期間工となった。ところが長年の昼夜逆転生活がたたって、今年初から体調を崩すようになった。ようやく4月から昼勤への転換が認められ、緩慢ながら快方へ向かい始めた矢先の出来事だった。「夜勤の結果、体を壊し、働けなくなったらお払い箱……。いくら何でもひどすぎる」。