連絡は紙!親が困惑する小学校アナログ事情 上司が知らない、小学生親の「カオスな日々」

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これまで小中学校の事務職員は基本的に学校全体でたった1人の配置だ。文部科学省は、従来教員がやってきた授業の準備や配布物の印刷などの事務作業を代行する「スクール・サポート・スタッフ」を全国の公立小中学校に配置する方針を決め、今年度から実施をしている。こうした国全体の姿勢で、今後変わっていくことを期待する。

PTA、授業参観で有休が足りない

小学生の親たちの中でもとりわけ共働き家庭を特に苦しめるのは、親が駆り出される学校関連の活動が平日昼間にしょっちゅう行われることだ。

・PTAの活動が平日。パトロールが14:30くらいから2カ月に1回あるが、出られないときは代理を立てなくてはいけない
・PTAの委員を引き受けたが、委員会は平日昼間にしか開催されず、生産性が大変低い打ち合わせで、作業改善を提案しても聞き入れてもらえない雰囲気
・授業参観やPTAの仕事は、すべて平日の昼間に行われ、仕事をしていても関係なく招集される。毎月2日くらいの頻度のため有休だけで対応するのは困難
・PTA活動や保護者会が平日で、仕事に早退も遅刻もできない時間に開催されるので、参加できない

PTAについての現状や歴史的経緯は黒川祥子『PTA不要論』、岩竹美加子『PTAという国家装置』などに詳しい。学校により温度差はあるようだが、これらの書籍からは、おそらくときに怒りに震えながら、非効率で強制的な「苦行」をしなければならなかった理不尽が綴られている。

背景には、主に母親の労働力を基本的に「無料」として扱ってきた社会の構造があるだろう。専業主婦が大半であった時代には、それでよかったかもしれない。しかし、ベルマークを集めて仕分けする、といった前時代的な活動に象徴されるが、そこに機会費用がかかっていることは見過ごされている。

実はアメリカの教育社会学の文献を読んだり筆者自身がシンガポールでインターナショナル校に子どもを通わせたりするなかで、親が度々学校を訪れ、ときにボランティア活動をするのは日本だけではない……どころか、日本よりも高頻度であるように感じる。ただし、他国では通常「任意」であり、ボランティアはできる人がすればいいという姿勢で、親たちはそれを平等に負担することを求めない。

たとえば、著者の息子が通う学校では、もうすぐPTA的な親の組織主催のハロウィンのイベントが平日の放課後に開かれる。参加する家庭は子どもがゲームなどに使えるチケットを5ドル(400円程度)で購入するのだが、親が当日設営を手伝う場合は5ドルは免除され、チケットが無料でもらえる。そもそも参加しなくても何の問題もない。やれる人がやる、できなければお金で解決する選択肢も、そもそも参加しない選択肢も作る。日本のPTAにもこのくらいの柔軟性があればいいのだが…。

学校の仕組みだけが問題なのではない。学校の活動に参加したいと思っても参加しにくいのは、日本の職場状況にも起因する。シンガポールに住んでみて、もう1点日本と大きく異なると感じるのが職場での「子ども関連行事」に対する見方だ。もちろん職種などによるが、いわゆる会社員において、父親であれ母親であれ子どもの学校の行事などに参加するために仕事を休むのは「普通」だ。

これに対し、日本の職場で小学生ママたちがかけられる言葉は、「もう小学生になったから、仕事に全力かけられるよね」「いつまでママキャラでいるつもりなの?」といったもの。小学生の子どもを持つ親たちが、連絡帳だのPTAだの、こんなにカオスな状況を抱えながら仕事をしているとは職場の上司や同僚は想像もつかないのではないか。

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