むしろ過酷、親が苦悩する「小学生の放課後」 保活や乳幼児期が大変のピークという大誤解

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こうした学校の仕組みに対応した生活の変化に加え、親たちを直撃するのが、子ども同士の人間関係だ。保育園、幼稚園はある程度は長い期間、そして長い時間生活をともにし、先生と子どもたちがお互いのことを知り、信頼関係がある程度できている。一方小学生になると、子ども同士の約束ややりとりも増える年齢になり、多様な家庭が集まるため、親も子も手探りになる。

・下校時の友人関係でトラブルが起きていたことに気づかず(仕事と下の子の育児に追われて気が回らなかった)、学校に報告する事態にまで発展してしまった。
・保育園は毎日保護者も送迎で顔を合わせ、連絡帳に園での様子が書かれていた。だが(小学校では)子ども同士のトラブルが小学校からの友達とあった場合、親同士が面識なく、先生とは電話でしか話せず、状況を子どもから聞き取るしかなく、解決に時間や労力を要した。

 

都内で公立小に通う子どもを持つある自営業女性は、登下校時に息子がいじめのような被害に遭っていることに気づいたときのことを次のように語る。

「息子は最初、親の介入を断ってきましたので様子を見ていましたが、ランドセルを振り回して車道に出されそうになったり、上級生の女の子が朝登校時にうちの子を蹴るようになったので、この関係性が固定化される前にやめさせようと思いました」

結果的にはスクールカウンセラーがかかわってくれて解決したというが、この女性はほかのいさかいで学校側が対処してくれなかった事例を知っていると言う。

これのどこがラク?

「親側の努力も必要だと思います。できるかぎり役員などお手伝いもやって学校の様子を知ること。あとは、先生の承認欲求にもこたえること。今は、学校に用務員の先生みたいな人がいなくて、総務を先生がこなしているそうです。だから先生が日々の努力でやってくれたことを、メモで感謝を伝えたりしています。これだけで、親への態度は全然違うんですよ。先生だって人間だから」

先生だって人間だから。本当にそうだ。ただし、共働き会社員が担任とのコミュニケーションをとる時間がなかなか見つけられない中、途方に暮れてしまうコメントでもある。

ここまで、小学校に上がって以降の生活の変化について述べた。「子どもが小学校に上がって両立はラクになったでしょ」とは、到底言いがたいことが少しでも伝わっただろうか。

次回記事では、親たちが驚く「非効率」で、ときに「前近代的な」学校生活について紹介する。

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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