性的テロを告発したノーベル受賞医師の凄み ムクウェゲ氏が平和賞を受賞した3つの意義

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こうした資源利用によるコンゴ東部の性的テロリズムと紛争の長期化は、グローバル経済を通じて、日本にいる私たちの暮らしともつながっている。

特に紛争資金源として利用されている4鉱物(スズ、タングステン、タンタル、金)は、世界各地で産出される鉱物と混ざって、携帯電話やパソコンなどの電子機器から自動車や航空機に至るまで、あらゆる工業製品に使用されている。

さらに悪いことに、コンゴ東部における性暴力は典型的な(集団的)レイプだけではなく、木の枝、棒、瓶、銃身や熱い石炭などが性器に挿入されたり、時には集団レイプの後、膣が撃たれたりすることもある。

ムクウェゲ医師の治療を受けるため、パンジ病院で待つ女性たち(写真:Crispin Kyalangalilwa/REUTERS)

それによって、女性の性器が機能しなくなると子どもを産めなくなり、まさに、性的テロリズムは命を産みだし育てる存在としての女性とその性器を破壊する意図を持って行われているのだ。

それが長期的に現地の人口減少につながり、その結果、上記の強制移動と奴隷労働に加えて、武装勢力はますます資源産出地域を支配しやすくなる。

最悪の環境で闘うムクウェゲ医師受賞の意義

ムクウェゲ医師がノーベル平和賞を受賞した意義は3点あると思われる。

第一に、医師がコンゴの性的テロリズムのサバイバーを治療した最初の婦人科医であり、コンゴ東部における鉱物の略奪を目的に国軍や反政府勢力が性暴力を犯し続けた事実について、国連本部をはじめ世界各地で声高に非難し、女性の人権尊重を訴えてきた最初の人物であることだ。

ムクウェゲ医師が手術するケースも、性器破壊が原因で生じているものが多く、「集団レイプによって生じる体内の傷を治療する世界一流の専門家」とも呼ばれている。

第二に、ムクウェゲ医師が、コンゴの問題だけでなく、世界における紛争下の性暴力や女性の人権の尊重について訴えてきたことだ。このようなアドボカシー活動をしている女性は世界各地にいるが、男性は大変珍しい。

ムクウェゲ医師は時間の25%をアドボカシー活動に費やし、特に紛争下の性暴力を止めるために世界各地を回っている。筆者が2016年、来日したムクウェゲ医師をアテンドした際も、会話の中でボスニアやコロンビアなどで出会った性暴力のサバイバーの話が何度か出た。

韓国でソウル平和賞を受賞した際には、ムクウェゲ医師は「日本政府は被害者の(元慰安婦の)要求を受け入れ、赦しを求めなければならない」とコメントした。核兵器や化学兵器を規制するのと同様に、戦争の武器としての性的テロリズムも規制されなければならないとアピールしている。

第三に、ムクウェゲ医師が暗殺未遂に遭い、コンゴで親友や人権活動家などが暗殺されながらも闘ってきたことだ。

無論、同時受賞したムラド氏も過去の受賞者の多くも、リスクを負いながら活動してきた。ムクウェゲ医師が他の受賞者と違う点は、「世界のレイプ中心地」「女性と少女にとって世界最悪の場所」とも描写されているコンゴ東部の最悪の環境で危険を顧みず治療に当たってきたことだろう。

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