藤巻健史さんはなぜ政治家になったのか 『トーキョー金融道』同窓会 第2話

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2002年、東洋経済発刊の月刊誌『金融ビジネス』に、人気連載があっ た。その名は「東京金融道」。インスパイア社長(当時、現在は取締役ファウンダー)の成毛眞氏が、「金融のプロ」である藤巻健史氏(フジマキ・ジャパン代 表)と松本大氏(マネックス証券社長)に「金融の掟」を教わる、という趣旨の鼎談企画だった。この連載は、2003年刊行の『トーキョー金融道』に結実している。
2013年10月某日、その伝説の3人と担当編集者2人(日経BPの柳瀬博一さん、東洋経済のヤマダ)とが10年ぶりに集結。藤巻氏は7月の参院選挙に当選したことから、その仕事っぷりを見るためにも、集合場所は参議院議員会館とした。

なぜ藤巻さんは政治家になったのか。松本氏、成毛氏が考える日本を復活させるための秘策とは? 改ページなしでどんどん読み進めるスクロール絵巻を、6話に分けてお届けします。

第1話から続く・・・・

 松本:今の当社のブック(純資産)も半分がドルですね。従業員は3分の2がアメリカ人。ビジネスはまだ日本のほうが3分の2なんですけど。でもブックから、人から、ビジネスから日米が半々ですね。もちろん中国でもやっているんですけど、ざっくりいうと日米半々くらいな感じの会社にしちゃったんですよ。

 藤巻:そうでしょ? 僕は今、政治の世界に入って、いかに政治家が日本の財政に対してトンチンカンかっていうことを感じているわけ。なんていうか、みんな無意識の楽観論なんですよ。やっぱりヤバイと思う。ものすごい大修正が起これば別ですよ。消費税がボーンと上がって、社会福祉費がガタっと減れば、それは別だけど。でも日本人の今の無関心さ、楽観論じゃきっと何も動かないし変わらない。となると、やっぱり海外におカネ持ってかないとヘッジできないよね。そういう面でね、彼の方向ってもの極めて正しいと思う。

ちょっとちっちゃい話するけど、さっきの話で一つ間違っていると思うのはね、ドイツ車が売れるっていったじゃないですか、技術がいいからというのはもちろんそうなんでしょうけど僕はドイツの経済がなんであんなに強い最大の理由というのは、実力に比べて通貨が安すぎるせいだと思うんですよ。それに対して南欧のほうは実力に比べて通貨が強すぎるからダメなんですね。だから同じロジックで日本はもっと通貨を安くしなくちゃいけないよって言っているワケ。まあ、そういうことかなと。

松本:だからそれなのに、ドイツの株を買えないというのはすごく悔しいじゃないですか。だってユーロ安の恩恵をものすごく受けているわけですよね、ドイツは。

 藤巻さんはマネックス証券の講演を狙っている?

 藤巻:そうなんだよ。だから僕なんかこれを言っちゃうと申し訳ないけど、日本の株よりよっぽど海外の株のほうが魅力的だと思っているわけ。

でも日本人ってアメリカ株をあんまり買っていないわけよ。なぜかっていうと、日本人って株を買う時に日本株がいいかな、外国株がいいかな、とまず考えるわけ。それは違うと思うんだな。まずはどの産業がいいかなと考えて、例えば自動車産業がいいなと思えば、次に自動車産業の中でどの会社の株を買うかを決める。トヨタ、フォード、BMWのうち、どの株にしようかなと。フォードには何々のリスクがあって、BMWには何々のリスクがあり、トヨタには為替のリスクがある。そういういいろなリスクを考慮しながらどの自動車株にしようかなと考えるべきです。為替はリスクのうちの一つにすぎないんです。ひょっとすると利益かもしれない。それに為替のリスクはキャピタルゲインに比べれると相対的に小さいんです。日本人はまず入り口で日本株か外国株かと考える。それがよくない。

成毛:うーん。藤巻さん、マネックスでの講演の仕事を取りたいような感じ。大丈夫かな、このまま言わせておいて・・・・・。

松本:えーと今度、こんな本が出ます。『世界のマーケットで戦ってきた僕が米国株を勧めるこれだけの理由』っていう本です。

藤巻:これどっかでみたような会社だな。東洋経済新報社? あ、これは宣伝ですか?

松本:そうです。皆さん、どうぞ宜しくお願いします。

成毛:あ、オレ帰るわ(と腰をあげる)。何かのセールスキャンペーンにはめられているような気がしてきた(一同爆笑)。

藤巻(まったく動じることなく)でも、まあそういうことなんですから。だから方向的に僕は松本さん、正しいと思う、ものすごく。

ヤマダ:海外に投資する場合、気を付けないといけないこともありますね。毎月5万円積み立てよう、という会社が業務停止命令を受けました。

 金融資産のほとんどが海外に

 成毛:僕も金融資産は今、5分の4が海外ですから。

 ヤナセ5分の4ですか?

 成毛:そう5分の4。だから日本円がなくて、この間、インスパイアからお金借りたんだもん(一同爆笑)。

 成毛:ゴルフの会員権が安いから買おうということで、うちの奥さんが言ったんでね。

 ヤナセ:円を持ってない?

 成毛:あれ、ないね、って。それじゃインスパイアに借りようだって()

 藤巻:僕もそうですよ。円なんかほんとちょっとしか持っていないもん。

 成毛:ほんとにないですよね。

 藤巻:自転車操業ですね、円に関しては。

 成毛:周りをみてもびっくりするくらい持ってないんですよね、今。

 ヤナセ(身を乗り出して)それって今、我々のようなサラリーマンじゃなくて、オカネを持っている方の平均パターンになっているんでしょうか。

 松本:いや、このお二人はちょっと極端。かなりイッテいる人達です。参考にしてはいけません。

 ヤナセ:かなりイッてますか。

 松本:と思いますよ。そんなにシフトしている人、あまり知らないもん。

 藤巻:まあ、してないよね。してないからこんなに円高なんだけど。

 松本:僕の会社はすごくシフトしますよ。会社っていうポートフォリオはすごくシフトしているけど、自分自身はそんなことはない。あ、でも僕の資産のほとんどは会社の株だから、結局はシフトしていることになるのかな。

 成毛:一緒じゃないですか(笑)。

 松本:でもマネックスの株を入れて計算していいのかな。

 成毛:あ、ダメかも。キャッシュっていうのは、流動性のある金融資産のことを言っているのであって。例えばボクはインスパイアの株式を持っていますけど、全然売れない。キャッシュ化できないから、それを除いての計算ですからね。そっちのほうがはるかに大きいですけど、松本さんと同じように。だからマネックスの株は除外して考えないとダメですね。

 藤巻:換金が現実的ではないかもしれないけど、その会社自身が国際化しているから、ドルを持っているのと同じだ、と言ってもいいのかも。

 成毛:理論的にはね。そのうちにマネックスも外資系になってしまうかも。昔ソニーが衛星ビジネスに参入できなかった理由があって、郵政省から「お前のところは外資系だ」って言われたっていう話がありましたから。

 藤巻:(キッパリと)でも外資系の定義はやっぱり株主ですから、松本さんが日本人である限り、日本の会社です。

 成毛:あ、そうか、そうか。

 藤巻:(畳み掛けるように)いつも言うんだけど、日産は外資ですからね。あれは外資系企業です。

 成毛:日産は外資、と。よくわかりました。

 松本:でもグローバル化がすごく進んだということですよね、この10年で、やっぱり。

いろいろなチャレンジが出てくる

 藤巻:松本さんがやっている仕事は、中長期的な面ですごく将来性あるんじゃないの?

 松本:というかビジネスよりも人間が変わりましたよね。私を含めた社員とかの刺激というか、課題というか、それがやっぱり全然高くなりますよね。

 藤巻:というと?

 松本:楽には生きていけなくなるんです、言葉一つとっても。英語でやんなきゃいけないとか、いろいろなチャレンジが出てくるわけですよ。ほうっておいていいものができるわけじゃないので。話し合わなければ。なんかね、話し合わないでものを作ると失敗するんですよ。そうすると失敗したものに文句が出てきて、やっぱりやんなきゃってことになって、さらにいろんなチャレンジ、課題が増える。

 そういった意味で、デフレからインフレになると、日本人が、より一人一人がもっとあせって働くようになる。そうすると、またチャレンジが増える。

 成毛:で個人的には忙しくなった?

 松本:忙しいですね。

 成毛:労働時間は増えちゃった?

 松本:だってアメリカ人をマネージしなきゃいけないという。

 藤巻:アメリカ人は本当によく働くからね、ホワイトカラーとかみると。

 松本:そのアメリカ人をマネージするっていうのはなかなかね。

 藤巻:中国にもいますし。

 ヤナセ:大変そう!

 成毛:わかる、わかる。僕もアメリカ人、中国人とはいっぱいやっているからなあ。

 藤巻:やっぱり自由競争がどんどん増えていくというか。労働…、日本もきっとだんだん終身雇用制の世界から離れていくんでしょうね。

この前も息子と話したんだけど、今ブラック企業の問題って出ていますよね。あんなのは終身雇用制度のせいなんだよね。雇用が流動化して、大きな受け皿があれば、皆ブラック企業から出ていくもの。

 松本:構造的に起き得ないんですよね、本来は。

 藤巻:起こらないよ、そんなの。ブラック企業だったらみんなやめていっちゃう。

それから政治の世界にきて思ったんだけどね、政治家って役人をめちゃくちゃ怒るんですよ。すごいんだよ。でも役人だって、どんどん転職するようになったら、怒れないよね。「あの政治家のせいでもうやっていられない、サヨナラ」って言って辞めちゃうんだからさ。そうして、「あの政治家は有為な役人を何人も辞めさせた。何様だと思っているんだ? 国益に反する。次の選挙では入れない」という風にもなっちゃうからね。

あと、日本人ってみんな部下のことをよく怒るじゃない。外資にいたら考えられないですよ。僕もモルガンにいた時は部下を怒らなかったですよ。というか怒れない。怒ったら「あ、そうですか」って翌日辞めちゃうんだから。

成毛:なるほどね(笑)。

藤巻:同じロジックで給料も終身雇用制だと低く抑えられるわけですよ。

だからね、終身雇用制って職が安定していて労働者にとってバラ色だと誤解しているんです。終身雇用制ではないアメリカの労働者は大変みたいに思っているんだけど、雇用人数って社会全体では変わらない。誰かが辞めれば次が空くんですよ。辞めても大きな受け皿がある。

終身雇用制は経営者のためのシステムで労働者のためのシステムではない。僕は終身雇用制じゃないほうが日本人の労働者にとって労賃が上がるし、日本の国力も上がってきっと皆がハッピーなんだろうなと思うわけ。

 なぜ政治家になったのか

 成毛:で、本題に入りますけど、藤巻さんはなんで立候補したんですか?

 藤巻:立候補した理由?

 成毛:お説はともかくとして、なぜ政治家に?

 藤巻:実はかなり昔ですけど自民党から話があったんです。その時はね、家内が大反対してね。立候補したら離婚するっていわれちゃった。

 成毛:それは正常な判断です(一同爆笑)

 藤巻:え、そこって面白いの? それからね、友達に聞いたら10人中9人までがね、「藤巻は政治家になるほど悪いやつじゃない」って言ったんですよ。それは半分くらい冗談だと思うんだけど。

 成毛:それは全部、冗談でしょうね(一同爆笑)。

 藤巻:今回はね、家内が「賛成はしないけど反対はしない」って言ったのが一つ大きかった。

 成毛:ありゃりゃ。そうなんだ。

 藤巻:今回のきっかけは、弟(みんなの党から立候補し、見事当選。現在参議院議員の幸夫氏)から「ブレーンをやらない?」っていう相談があった。「どういう形で?」って聞いたら、「僕の秘書」って言いやがった。このやろうって思ってさ、冗談じゃないよ。それが出る気になっちゃった直接の理由なんだけど。

 成毛:つまり兄弟喧嘩ですか? でも本当は兄貴にも出てほしかったんだじゃないかな。

 松本:うん、確かにそうでしょうね。

 成毛:きっとそういう感じだね。

 中に入ってガーガー言おうかと

 藤巻:別に兄弟喧嘩はしていませんよ()。真面目に答えると、皆さんご存知のように、財政に無茶苦茶に危機感を持っていたわけ。で日本を再生するためには円安しかないと、これは元々ずっと僕の主張だったし、日本は社会主義だから資本主義にしなくちゃいけない。これもずっと言っていたの。でも誰も聞いてくれないわけよ。あいつは極端なことしか言わないと思われちゃって。

マイナス金利も90年代から言っていたし、インフレも必要だっていっていた。マイナス金利なんて気が違ったかって言われたしさ。それから株とか土地など資産の値段をあげなくちゃ、これは難しくはない、簡単なんだと言うとさ・・・・(長いので以下省略)・・・・でも最近になるとみんな言い始めたわけ。10年、20年遅れるわけですよ。ある程度マスコミでは取り上げてくれたし、本も書かせてもらったんだけど、でも部外者だと政治家に全然伝わらないわけだよね。だとするならば、内部でガーガー言ったほうがいいんじゃないかと。それが一つ大きい理由ですね。

もう一つ大きい理由を言っちゃうと、これ言っていいのかどうかわかんないけど。正直言って、僕はもう本当にね、財政はヤバくてガラガラポンがあると思っているわけ。

 成毛:出たー。

 松本(爆笑)

(3話「藤巻さんはガラガラポンのあと、何になる?」に続く)

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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