義父母を介護した嫁が相続で得る権利の中身 法改正で新設、「特別寄与料」はどんな制度か

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Q)介護で貢献すれば、寄与分は必ずもらえる?

A)そうでもない。実際には、特別寄与料という制度ができても、請求すれば金銭を受け取れるとは限らない。法改正前の寄与の認定も、ハードルは高かった。

なぜなら相続人は「一定程度の扶養義務」を負っているからだ。法律上、ある程度の貢献はしてしかるべきとされている。

寄与分が認められるためには、「被相続人の財産の増加、維持に貢献した」かが重要。しかし財産の増加、維持にどれだけ貢献したかを証明することは困難だ。

また「無償で労務を提供する」という条件も必要になる。お見舞いに行ったり、介護の手配をしたり、付き添いをしたりという程度では難しいと判断されてしまう。

デイサービスや訪問介護を利用しているにもかかわらず、特別に寄与したと主張できるかは難しい。ほかにも被相続人が「要介護2以上の状態」、妻が「1年以上」介護に携わるなども目安になる。

一方で被相続人が施設に入れず、自宅での介護を望んだ結果、介護者が仕事を辞めざるをえなくなったという場合なら認められる可能性がある。金額としては、療養介護の日当分に日数をかけた数字が一つの目安だ。過去には数百万円が認められた例がある。

今回の法改正で対象は広がったとはいえ、ハードルが低くなったわけではない。依然として残る高いハードルが課題だ。

配偶者への権利発生で逆に「争族」は増えるかも

これまで相続人ではない妻は、家族の中で外野の位置づけで、相続の話し合いに入ることができなかった。夫である長男が家族と話し合い、妻の貢献分の見返りとして自身の相続額を増やしてもらうよう交渉する必要があった。

しかし、法改正により特別寄与料という制度ができたことで、配偶者の貢献について話し合うきっかけになる可能性が高まる。配偶者による介護に報いる方向へと進んだ点は評価できる。

ただし配偶者が相続の話し合いに参加しやすくなったことで、今まで以上に「争族」が増えるかもしれない。また相続紛争が長期化する可能性があるのも、法改正に伴う注意点として相続にかかわる人々は認識する必要があるだろう。

『週刊東洋経済』2018年10月6日号(10月1日発売)の特集は「相続が変わる 40年ぶりの大改正」です。
林 哲矢 東洋経済 記者

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はやし てつや / Tetsuya Hayashi

日本経済新聞の記者を経て、ハーバード大学(ケネディスクール)で修士号。『週刊東洋経済』副編集長の後、『米国会社四季報』編集長。

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