大企業の「化石並み情報システム」に潜む爆弾 レガシーシステムは「2025年の崖」で崩壊する

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「2025年の崖」をもたらす主な要因の1つは、人材不足である。

今後、レガシー・システムを保守・運用してきたIT人材が引退していく。他方で、最先端の知識を身に着けた若いIT人材は、旧いプログラミング言語や遅れた技術で構成されるレガシー・システムの保守・運用などに従事したがらないであろう。ただでさえIT人材の不足が慢性化している中で、レガシー・システムの保守・運用を担う人材の確保は、ますます困難になっていくのは、火を見るより明らかである。

また、システムの老朽化に起因するシステム障害の件数も、今後、増えていくであろう。「報告書」では、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失もありうるとしている。

こうなると、レガシー・システムの維持管理の費用の増大は、避けられない。2025年頃には、企業のIT関連予算の9割以上をシステムの維持管理費が占めるということも十分に考えられる。

また、2025年にサポート終了となるSAPのERPに代表されるように(参考)、2025年までに、サポート終了を迎えるソフトウェアがいくつかある。このように旧い技術が退場するたびに、それを導入している企業は、その都度、その対応のために巨額の費用と労力をかけて、システム全体を見直すことを余儀なくされるだろう。

他方で、今後、クラウド、IoT、AIをはじめとする新たな技術の登場や本格的な普及が見込まれる。しかし、レガシー・システムを抱えている企業は、これらの新技術を十分に活用することができない。

特に、2020年の導入が見込まれる5Gは、データの取扱量を爆発的に増加させる。データの活用が、これまで以上に、企業競争力を決定づけるようになるであろう。しかし、レガシー・システムを抱えている企業は、膨大なデータを活用するどころか、現状のデータすら満足に管理できていないのである。

このように、今後起きうる変化を織り込むならば、レガシー・システムを抱えている企業の競争力は、2025年頃には、もはや取り返しのつかないほど低下しているであろうと予想される。「2025年の崖」と呼ばれるゆえんである。

1990年代の「不良債権問題」の再来か

レガシー・システムは「技術的負債(Technical Debt)」と呼ばれることもあるが、この問題は、まさに1990年代のいわゆる「不良債権問題」を連想させる。

当時、1980年代後半のバブルの負の遺産として巨額の不良債権が生じ、銀行の経営を圧迫した結果、金融システムが機能不全に陥り、日本経済の再生が妨げられた。

今日のレガシー・システムもまた、かつての負の遺産であり、文字通り「技術的負債」として、企業の経営を圧迫している。また、ベンダー企業は、このレガシー・システムの運用・保守にリソースを割いており、成長領域であるクラウドベースのサービス開発・提供への展開が遅れている。レガシー・システムは、一企業のみならず、日本経済全体のデジタルトランスフォーメーションを妨げているのである。

レガシー・システムの問題は、まさに「ITの不良債権問題」と言っても過言ではあるまい。

このレガシー・システムの問題を解消し、「2025年の崖」を克服するために、国はどのような政策を講じるべきであろうか。システムの刷新は、企業経営の本質にかかわるだけに、きわめて難しい問題である。

国は、すでに税制措置(参考)を講じているし、「報告書」もまた、いくつか施策を提言してはいる。だが、これらだけで十分というわけではない。さらなる検討が必要であろう。

とはいえ、まずは企業のトップが、レガシー・システムの問題の重大さを認識し、その刷新を決断することが肝要である。それこそが、デジタルトランスフォーメーションに向けた第一歩となる。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。

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