年金がどう運用されているか知っていますか 巨大なクジラ「GPIF」の知られざる実像

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ESG投資への取り組みについて、GPIFの広報部門に直接尋ねてみました。

「GPIFが昨年採用した日本株の3つのESG指数は、企業が公開している情報をもとに組み入れ銘柄を決めているので、指数に入っていない企業にもESGに興味を持ってもらい、情報公開やESG活動を強化することで、中長期的な企業価値が上昇し、市場全体の投資リターンが上昇することに期待しています。

ESG投資に取り組んでいる企業の株価が上がるとは、まだはっきりと証明されていませんが、不祥事の発生など株価のダウンサイドリスクは少ないと言われています。中長期的に見ると、ESGに取り組む企業にはそういった視点を重視する海外の長期投資家の資金が流入する可能性もあります。何よりESGの考慮によって企業価値そのものが持続的に高まることが、投資家からも選ばれ、安定的なリターンにつながると考えています」

上場企業向けアンケートによれば、3つのESG指数に採用されなかった企業でも、「ESG指数に組み入れられたくない」と答えたのは、わずか1.7%。指数に採用されなかった大型株企業では、社内での取り組みに変化があったと答えた企業が88.9%でした。

「人事部が指数の選定結果を意識するようになった」(医薬)、「報道やお客様からの問い合わせの増加等により、役職員の意識向上につながった」(金融)、「ダイバーシティ推進室が設置され、経営計画もESGを意識した内容になった」(科学)という具体的な変化に対するコメントもありました。私たちの賃金や収入から集められた年金積立金が、まわりまわって、企業に影響を及ぼしているのは、興味深い事実です。

進化を続けるクジラを見守る必要がある

さらに、GPIFは、資産全体の5%を上限に、株や債券とは違う値動きをする「オルタナティブ資産」にも投資を始めています。

オルタナティブとは「代替の」という意味があり、オルタナティブ投資というと株や債券以外の、不動産や未公開株などに投資することを言います。

今は、長期にわたって安定的なリターンを得られるよう、イギリスの空港などに投資するインフラ投資、新興国の消費関連企業の非上場株式を対象としたプライベート・エクイティ・ファンド投資、国内のオフィス、賃貸住宅などを対象とした不動産ファンドなどに投資しています。今後は、海外不動産ファンドにも投資する予定です。

2016年度、GPIFに入ってきた積立金は、国民年金勘定、厚生年金勘定合わせて約2.6兆円でした。100年先を目指して泳ぎ始めていた巨大なクジラGPIFが、毎年積立金をのみ込み、どんな運用をし、それがどんな影響を及ぼすのか、受け取る年金額だけでなく見守っていく必要があります。

山口 京子 ファイナンシャルプランナー

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やまぐち きょうこ / Kyoko Yamaguchi

1966年名古屋市生まれ。金城学院中学、金城学院高校、金城学院大学卒業。現在は、情報サイト・オールアバウト「家計簿・家計管理」「お金美人のすすめ」執筆、テレビ、ラジオ、セミナーで活動中。著書に『お金持ち名古屋人八つの習慣』がある。

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