外科手術を刷新する「ロボット革命」の全貌 米国では前立腺手術の85%でロボットが活躍

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身体の右横に2つないしは4つの穴を開けるだけで済み、肋骨や神経、血管を切ることなく手術が終了する。痛みもなく出血もないことから、翌日から立ち歩きや食事も可能だ。

これは「低侵襲手術」ともいわれ、早い場合には手術後3日には退院可能になるという、夢のような心臓手術が実現する。

画期的な医療機器は患者さんにメリットをもたらす。手術支援ロボットもまたしかりだ。が、ロボット手術はロボットが自動的に手術をするわけではない。ここが大きなポイントだ。

ダヴィンチはあくまで遠隔操作型の内視鏡機器だ。自動的にアクティブに能動的に機械が手術するわけではない。ロボットを使った外科医の動きがそのまま、患者さんの元にあるロボットで実行に移される。つまり、誰もが上手にできるわけではない。手術が下手な外科医が使えば、良い結果も見込めない。

加えて、ロボット手術の導入にあたっては、多額の費用が必要となる。ダヴィンチの価格はざっと2億〜3億円が相場だ。いまだ導入している医療機関が少ないことから、習熟した外科医が圧倒的に不足している。

このような状況から、今すぐにあらゆる病院へと広まる可能性は少ないだろう。それでも筆者は、将来を見据えたうえでロボット手術を普及させるべきだと考えている。

患者負担の少ない医療の実現へ

筆者は過去13年間で、500件を超えるロボット手術を経験してきた。4月から保険診療になったこともあり、今では毎月15例前後の手術をダヴィンチで行っている。

これまでの経験を基にデータを分析したところ、ほぼ50例ごとに手術時間や人工心肺時間、そして心臓を止めている時間が短縮されていることがわかった。筆者の感覚では、100例ほど経験してようやく、「ダヴィンチ心臓手術とは何か」がわかってきたといえる。

目覚ましい進歩によって、今後、従来の外科手術に代わる治療法が、ロボット手術以外に出てくる可能性は十分にある。ロボット手術の完成形を見届けることなく、新たな医療の時代に移行することだってありうる。

それでも今後、手術を受ける患者さんにとって、胸を真ん中で切る手術はすでに過去のものになったと思ってもらっていい。多くの治療において、患者さんに負担をかけない医療を実現できる日がすぐそこまで来ている。

渡邊 剛 心臓外科医、ニューハート・ワタナベ国際病院総長

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わたなべ ごう / Go Watanabe

ドイツのハノーファー医科大学にて、ドイツ心臓外科の父と呼ばれるHans G Borst教授に学び、2年半の臨床留学中2000件にわたる心臓手術を経験。チーフレジデントとして、32歳で日本人最年少の心臓移植執刀医として活躍。41歳で金沢大学医学部の心肺・総合外科の教授となり、心臓アウェイク手術や、外科手術用ロボット「ダヴィンチ」を使った心臓手術など、日本で初めての手術を次々に成し遂げる。手術の成功率は99.6%。2014年5月、ニューハート・ワタナベ国際病院を開設し、総長として就任。「心臓外科のブラック・ジャック」と呼ばれる。

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