特別寄稿
哲学、美学がない企業に未来はなし 石井 裕 MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ 副所長

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世界最高峰の研究施設として知られるマサチューセッツ工科大学(MIT)Media Lab。
その副所長である石井裕教授に、世界で認められる成果を生み出すアプローチと、日本の企業、ビジネスパーソンがグローバル競争を勝ち抜くためのヒントをうかがった。

登る山は「見つける」のではなく
「造る」もの

独創的研究課題とは「見つける」ものではなく、自らの手で「造り上げる」ものだと考える。1995年にMIT Media Labで研究を始める直前の私は、雲に隠れて見えない高い山を見つけ、登る決意で気負っていた。しかし、そんな山など初めから存在しないことを MIT に来て思い知ることになる。Media Labへの参画時、当時の所長、ニコラス・ネグロポンテ教授が私に言ったことを、今もよく覚えている。「これまでの研究はいっさい捨てて、まったく新しいことを始めろ。人生は短い。新しいことへの挑戦は最高のぜいたくだ」。自分が登るべき山は、自ら造り上げるものなのだ。

私はこれまで、どんな山を造り、登ってきたのか。私は、自分の人生のライフスパンを超えて、2200年の未来にまで残るようなビジョンを生み出すこと、それを次の世代に遺すことをずっと考えてきた。優れた技術も、優れた製品も、やがて陳腐化し消えてゆく。しかし、優れたビジョンは、強い普遍性を持つビジョンは、時代を超えて生き残る。私がこれまでMedia Labで大きなプレッシャーにさらされながら生み出した山、すなわちビジョンは、デジタル情報に直接手で触れて操作できるインターフェイス「タンジブル・ビット」、そしてダイナミックに形状や性質を変化させられる新しい物質「ラディカル・アトムズ」である。未踏峰連山を造山しながら、その世界初登頂を私はめざしている。

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