インフレ経済を進めるのは、株式などの資産が買われる環境をつくりだすということですが、そうなると日本株を買い続ける外国人株主の発言力がいっそう強まっていきます。企業の利益配分は労働者よりも外国人株主を意識したものになっていきかねません。これは懸念すべきことです。日本がアメリカ型の格差社会に近づいていくことにほかならないからです。
すでに日本の企業でも、一部の企業は労働者を使い捨てにするような環境で株主配分を強めています。従業員を消耗品のように使っている企業には、利益率が高いところが多く、中には新卒社員の5割が3年以内に辞めるような、まさに資本家重視のアメリカ型企業といえるところがあります。
バーナンキ議長はアメリカ経済を救っていない
企業利益率が最高でも、国民の3分の1が貧困および貧困予備軍であるアメリカと、これまでの日本とでは、どちらがいいでしょうか。国民は真剣に考える必要があります。
必要以上に量的緩和を行い、円安と物価上昇、株価上昇を起こすことができたとしても、円安が進んで恩恵を受けるのは一部の輸出企業や資産家のみで、むしろ物価上昇で国民生活は疲弊し、格差の拡大が進むことが十分に理解していただけると思います。
繰り返しますが、15年ほど前にポール・クルーグマン教授が提唱した「インフレ目標政策(インフレ期待)」は、ここ10年のアメリカ経済を見ても成り立っていません。資源価格が高止まりしている時には、景気が回復し、企業収益が向上したとしても、所得の上昇にはつながらないからです。
10年以上もこの政策が機能していないのに、クルーグマン教授という権威ある学者の提唱した政策であることから、日本は間違った理論がいまだに正しいと思い、それを信じて国の金融政策を進めてしまったのです。
FRBのバーナンキ議長は「アメリカ経済をデフレから救った」と評価されていますが、その認識自体が大きな間違いです。本当の景気回復とは、国民生活が豊かになることであり、株価が上昇することではないからです。株高による資産効果があるのは、ほんの一握りの資産家だけです。
金融危機後のアメリカ国民は所得が下がり続けている中で、量的緩和によってもたらされた物価上昇によって生活が年々苦しくなってきています。そうした歴史的な過ちを検証せずに、なぜ日本はアメリカの量的緩和にならえと、日銀に積極的な金融緩和をさせたのでしょうか。物価を無理矢理に上昇させることができたとしても、企業は従業員の給料を上げることが難しくなっているという歴史の教訓を、なぜ権威ある経済学者たちは学ぶことができていないのでしょうか。
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