「チコちゃんに叱られる!」にハマる人の心理 「半分、青い。」と並ぶNHKの二枚看板

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第3に、そもそものテーマ設定が面白い、というのも見逃せません。どれだけ演出にこだわっても、題材となるテーマ自体が面白くなければどうしようもないのです。その点、この番組ではテーマ選びのセンスが抜群です。質問を見て思わずハッとさせられるだけではなく、答えを聞いてさらに驚かされます。思考の盲点を突かれる快感と同時に、答えを聞いて新たな発見をする納得感も味わえるのです。

恐らく、「テーマ自体が面白い」という自信があるからこそ、そこに余分なものを足したりせずに、極力シンプルな演出で見せているのでしょう。食材のクオリティに自信があれば、シェフは調理方法に気を使う必要はありません。切るだけ、焼くだけの単純な調理だけで素材の良さが引き出されることになります。

「笑える」だけじゃなく、時に「考えさせられる」

この番組で扱われるテーマは、ただ「なるほど」と納得して終わるようなものばかりではありません。見る人の心に何かを残すような深みを感じさせるテーマもあります。

たとえば、「親と一緒に過ごせる残り時間は?」という疑問が取り上げられたことがありました。大人が別居している親と過ごす時間は平均して1年にたった1日(24時間)程度。つまり、「親の余命年数×1日」が親と過ごせる残り時間ということになります。具体的な数字を突きつけられると、驚くほど短いと感じる人が多いのではないでしょうか。このように、何かを考えさせられるようなテーマがときどき出てくるのも面白いところです。

近年、民放のバラエティ(特にゴールデンタイム)はどんどん演出過多になっていく傾向があります。瞬間瞬間でチャンネルを変えられないように、つねに何かが起こっている状態を作り出そうとします。CM直前などに、次に出てくる人物のシルエットだけを見せたりして興味を引いたりするのも常套手段です。それが時として視聴者に息苦しい印象を与えてしまうことがあります。

その点、『チコちゃんに叱られる!』はガツガツしていない上品なつくりの番組です。ところどころに民放っぽいノリが感じられますが、根底に流れる空気はゆったりしています。

それは、この番組で扱うテーマが日常の中にあるものだからではないでしょうか。私たちは生意気盛りのチコちゃんに導かれて、新しい知の扉を開くのではなく、すぐそこにある日常を再発見するのです。彼女は、雑事に追われてあくせくしないで目の前にあるものを見つめ直す大切さを私たちに教えてくれているのかもしれません。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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