コンテンツホルダーが米国の横暴と戦う方法 角川歴彦×川上量生 対談(5)

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角川 歴彦(かどかわ つぐひこ) 株式会社KADOKAWA取締役会長。1943年生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒業。内閣官房知的財産戦略本部本部員、東京大学大学院情報学環特任教授などを務める。著書に『クラウド時代と<クール革命>』(角川書店)がある。

角川:パロディみたいなものとかね。日本の著作権法は、もともとフランスやドイツから出てきた。フランスの作家が自分の権利を守りたいと言って、ベルヌ条約をつくった。そのフランスの著作権法にパロディはちゃんと入っているのです。

たとえば、北海道の銘菓「白い恋人」に対して、吉本興業が「面白い恋人」というお土産をつくった。訴えたほうも本当はわかっていると思うけど、「白い恋人」があるから「面白い恋人」が成り立つわけですよ。買っている人も、みんなパロディだと理解して買っているんですよね。これは本来、許されるのです。

日本の著作権法は「辺境」

角川:フランスの著作権法には、パロディを著作者が認める必要はない、関係ないのだと書いてある。でも、最初につくった人をリスペクトするために、必ず原作者が誰かがわかるようにパロディをつくらなければいけない。原典がわからなければパクりだと書いてあるのです。日本の著作権法はあちらから学んだはずなのに、パロディに関する条項が抜け落ちている。大陸の中心部から遠く離れた辺境の法律というのは、だいたい変質してしまう。日本の著作権法は「辺境の著作権法」なのですよ。

もともと著作隣接権(著作者ではないが著作物の発表・伝達に重要な役割を果たした人たちに認められる権利。歌手・演奏家・俳優や、レコード会社・放送事業者などに認められている)はイギリスが言い出したのです。ドイツとフランスはイギリスが嫌いだったから抵抗する。本については阻止したけど、音楽やラジオが出てきたときに、さすがに隣接権を認めないとダメだなということで、嫌々ながら認めたのです。

日本で著作権法ができるときに、隣接権を出版社に与えてもらえれば話は簡単だったけど、当時の日本の出版社は隣接権がほしいなんて運動はほとんどしなかった。出版も高度成長期で黙っていても儲かったから。政治にかかわることは出版界の矜持(きょうじ)が許さないとか、そういう妙な美学もありました。

川上:そこらへんの統一がおかしいですよね。音楽に著作隣接権として原盤権などがあるなら、出版社にも同様に版面権などが与えられてもおかしくないし。ところが、そうなると、写真には著作権があるのかとか、いろいろ一貫していない。そうしたものはいったんまとめて整理したほうがいいと思うんですけどね。

角川:だから日本でも、新しい時代に対応した「デジタル著作権法」をつくったらいい。僕の本での提案はそれなのです。

川上:何が正しいかという倫理的な面で著作権法を論じるよりも、そもそもの成立過程からすると、あれはやっぱり「財産権」だから、どうすれば長期的に国の産業やクリエーターの利益につながるかという視点から、考えるべきだと思います。

角川:そうそう。もっとシンプルにね。著作権法の基本は何かと言えば、まさに財産法なのですよ。でも今は著作者人格権などがついてくる。

川上:なんか変な方向に行くんですよね。ちょっと哲学的な話になっちゃって。そこは切り離して考えるべきじゃないでしょうか。著作者人格権は刑法か何かにしてもらって(笑)。

角川:そういう話も本には出てきます。興味のある人は、ぜひ読んでほしいですね。

(撮影:西村 康〈SOLTEC〉  構成:田中幸宏)

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