安倍首相「単独リーダーシップ」に潜む危うさ 「トランプ抜き」で拉致問題は解決できるのか

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一方、米国時間の6月5日付報道では、シンガポールでの米朝首脳会談がうまくいった場合、トランプ大統領が金正恩委員長をフロリダの別荘に招待して、ゴルフを一緒にする可能性があるという観測が飛び交った。

6月7日、安倍首相による訪米で行われた日米首脳会談で、安倍首相は金正恩委員長と拉致問題に関して直接会談を行うと強調したのだが、その時、米国人記者が、シンガポールでの米朝首脳会談が上首尾に終わったという条件付きで、「トランプ大統領は、次の米朝首脳会談をフロリダの別荘で行うか、ホワイトハウスで行うか」と尋ねた。

その質問に対してトランプ大統領は、「フロリダの別荘ではなく、ホワイトハウスになるだろう」と答えながら、にこやかに、念押しするような笑顔で、隣にいる安倍首相のほうに向いて、確認を取るようなジャスチャーをして見せた。それはいったい何を意味するのか。

トランプ大統領の交渉上の選択肢を狭めた

米国のテレビ界に根付いている「常識」がある。隣の人物に向かって語るときは、その人物のほうに全身を向けるというものだ。それは礼儀であり、テレビカメラの前でも守られるマナーである。トランプ大統領が、満面の笑みで、安倍首相に念押しするように、安倍首相のほうを向いたのは、「金正恩氏とゴルフに行くようなネゴシエーションの選択肢を、シンガポールの会談では採らない」という確認だったのだ、と筆者は判断している。

拉致問題に関する金正恩委員会との交渉は、安倍首相の単独リーダーシップにおいてなされるということを、安倍首相自身がホワイトハウスで明示したことによって、トランプ大統領のネゴシエーションの選択肢を狭めたことになる。逆に言えば、仮にトランプ大統領が先頭に立って交渉するのであれば、ゴルフで金正恩氏の気持ちを徹底的にほぐす、というネゴシエーション形式の選択肢があったのではないか。

ところが、安倍首相自身の単独リーダーシップで解決を目指すということで、拉致問題の解決はトランプ大統領から、全面的に安倍首相にバトンタッチされる、という論理が明示され、「米朝首脳ゴルフ外交」という選択肢は、自然消滅したことになる。

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