「危ないブロック塀」が野放しになる深刻原因 死亡事故が繰り返し起きているのだが…

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ブロック塀の撤去にかかる費用も課題だ。塀の規模や建物の立地にもよるが、複数の解体工事業者の見積もりによれば、1平方メートル(通常、ブロック塀に使用されるブロック約12.5個分)当たりの撤去費用は約5000円となる。

ブロック塀倒壊現場で下敷きになった女児の冥福を祈る人(写真:ロイター/共同)

実際には資機材の運送費や壊したブロックの処理費なども加わるため、一般的な戸建て住宅に付随するものなら「15万〜20万円程度はかかる」と、首都圏で解体工事を手掛ける日本エコジニアの渋谷巧代表取締役は言う。

ただし、これは母屋を解体するついでにブロック塀を取り壊す場合。ブロック塀のみを撤去する場合は重機が使えないため手作業となり、撤去費用はさらにかかるという。「年間約1700件の解体工事を行っているが、ブロック塀のみの撤去依頼はない」(渋谷氏)。

自治体も手をこまぬいていたわけではなく、ブロック塀の撤去や生け垣の造成に対し、補助金を用意している。金額は自治体ごとにバラツキがあるものの、おおむね撤去費用の半額程度は助成される。だが、上限20万円という手厚い補助金を用意している新宿区でも「2016年度の申請件数は2件」(同区防災都市づくり課)というのが実情だ。

ほかの選択肢はないのか

世田谷区の場合、ブロック塀を撤去して代わりに生け垣などを作る場合に最大25万円を補助しているが、昨年度の申請件数は2件。「災害時のブロック塀の危険性や緑化の必要性について啓発を行っているものの、自宅のブロック塀に問題を感じていない住民も多い」(同区みどり政策課)。

繰り返されてきた悲劇に歯止めをかけるには、撤去を声高に叫ぶだけでは足りない。高槻市を筆頭に、今回の事故を契機に自治体もブロック塀の実態調査に乗り出した。ブロック塀に代わる選択肢はないのか、模索する時期にきている。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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