「外国人労働者の受け入れ拡大」をどう読むか 安倍政権の発想は「人手不足への処方箋」

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現状でも外国人労働者は無視できない存在になっている。「労働力調査」(総務省)と「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」(厚生労働省)のデータから、業種別に就業者数の前年との差と労働市場全体での存在感を概観してみよう。

まず、目につくのが宿泊・飲食業の実情である。宿泊・飲食業に従事する就業者数は、2017年に日本全体で391万人と前年比横ばいだった。しかし、これに従事する外国人労働者は13.1万人から15.8万人へ2.7万人増えている。つまり、外国人労働者を除けば、宿泊・飲食業の就業者は純減だったのであり、「外国人を雇用できなければ商売が回らない」という事業者も多かったのではないかと推測する。そのほか農林業などのように、すでに業種全体として減少しているが、外国人労働者の存在により減少ペースが鈍化している業種もある。

ちなみに外国人労働者の就労業種を見てみると、比率の高い順に製造業(30.2%)、卸・小売業(13.0%)、宿泊・飲食業(12.3%)となっている。卸・小売業、宿泊・飲食業は増加傾向にある訪日外国人旅行客(インバウンド)への対応もあって、求人に適応しやすいケースが多いのかもしれない。いずれにせよ、すでに実生活で身近な業種において「外国人労働者抜きでは立ち行かない」という状況が生まれていることは統計から確認できる。

人口減少のデメリットを軽減する

断っておくが、外国人受け入れに関してはさまざまな意見があるべきだし、将来の人口構成にまで影響することに鑑みれば、軽々に結論を急ぐべき問題ではないと、筆者は考えている。特に今回の決定については、後述するような問題点もありそうなので、世論をもっと巻き込む余地があるといえるかもしれない。

とはいえ、経済成長の観点からは、前向きに評価せざるをえない面がある。本欄ではその点に限って議論を進めたい。統計で見たように、外国人労働者抜きでは商売が成り立たないという業種が出てきているのだから「認める・認めない以前に必要」という認識はありうる。「そのような事業者は潰れてしまえ」という意見もあるようだが、そこまで排他的になる必要性が大きいとは思えない。すでに日常的にサービスの受益者となっているわれわれは軽々にそのようなことは口にできないように思う。

周知のとおり、何もしなければ日本の総人口は減少傾向が続き、2050年には1億人を割り込むことが予測されている。そのほかの経済・金融予測とは異なり、人口予測は大筋で当たる。その事実を踏まえたうえで今回の政策を客観的に評価するべきだろう。また、教科書的にいえば、労働投入の増加は潜在成長率の底上げ要因なので、やはりそれ自体はポジティブである。人口減少を理由に日本経済の先行きは悲観的に語られているのだから、この点も多くの説明を要すまい。

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