台湾経済の最大の課題は内需拡大だ--蔡英文・台湾民進党主席

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観光産業がすべて中国からの客に頼るならば、これらの国からの観光客を追い出してしまうことになる。そうなれば、高品質の産業にはなれない。私は中国からの観光客導入に反対はしないが、必ず一定の比率で制限を設けるべきであり、台湾の観光産業の高品質化に影響を与えてはならない。

--介護については、日本では雇用はあるが低収入に苦しむという現状があるが、台湾ではどうか。

介護には社会福祉の要素がある程度含まれる。完全に民間で行うと、経営を維持できる利益が得られない可能性もある。そのため、政府がある程度の資金注入が必要だ。そこで、問題は資金注入をサービスの提供者に対して行うのか、サービスを受ける側に対して行うのかだ。私は、サービスを受ける側に福祉補助を行いたい。そうすれば、サービスを提供する側に競争が働き、効率が高まる。多くの社会福祉事業、あるいは福祉に近い産業で、効率が低いためにコストが高くなるということがよくある。となると、国家が注入すべき資金も増えてしまう。

また、台湾の賃金は金額的に見ればそれほど高くない。台湾の基本的な物価が安定しているためだ。PPP(購買力平価)値からみると、台湾の生活水準は低くない。しかし台湾の物価は、日本や韓国ほど高くない。民進党政権の最大の成果は、物価を安定させたことだ。物価が高くないという状況の下で、生活を一定の水準に保つことができるのだ。この点、台湾は健康・介護産業を発展させる上で、コスト面の優勢を持つことができる。

しかし、この産業の長期的に大きな競争相手となっているのが外国人労働者だということは分かっている。外国人労働者の無制限な供給は、この産業に打撃を与えている。この産業に競争力が求められるなら、外国人労働者を導入することになる。そのため、本国人の雇用の機会が失われる。この点でバランスを確保する必要がある。

--対日関係についてお聞きしたい。日本からすれば、外省人である馬英九総統は「反日」というイメージがぬぐえない。総統選前にたびたび来日し、「反日」という誤解はある程度解いたように思われたが、就任早々の尖閣諸島(釣魚台)問題で、「やはり反日」との印象を日本政府に植え付けてしまった。

政策については、政策を考える人と制定する人は別次元だ。政策そのものについては、民進党と国民党の間に方向性での違いがなさそうに見えるかもしれないが、その程度で違いがある。

結局は人が大事。すなわち、対日関係に関する問題を思考する人、政策を執行する人が重要だということ。彼らは、その成長の背景や教育の背景、文化の背景、社会の背景が、その関係の重要性と本質の存在を理解するのに十分なものでなければならない。

民進党が政権を担当していた期間、日本との関係が大幅に改善された。これは主に、民進党が使った「人」が、日本の背景を理解し、日本の文化を理解していたからだ。政策の制定者が日本の文化を理解し、日本の社会を理解していた。そのため、日本との関係は非常に近くまで引き付けられる。

国民党の表面的な政策は民進党とそれほど大きな違いはなく、馬英九総統が対日政策を語る時にも民進党とたいした違いはないように聞こえる。しかし、彼の成長の背景を理解する必要がある。さらに彼の政策のアドバイザーたちの成長の背景が、日本の社会の問題や文化の背景をより深く理解するに足るものなのかどうか、これには大きな疑問がある。

民進党としては、日本との関係が非常に重要であることを理解している。しかも日本は、少なくとも短期的に見て戦略的利益でわれわれと一致している。戦略的な角度から見て、また文化的、社会的な要素の背景から見て、日本と友好的関係、協力的関係を維持することは、最も良い政策的な選択肢だ。

しかし馬英九政権の角度から見れば、たんにあいまいな概念で日本と良好な関係を維持すると言っているだけだ。彼らはより深い戦略的な思考には入っていない。社会の連結、文化の連結の角度からこの問題を見ていない。従って、政策は表面的には差が大きくないように見えるが、実際の効果と執行は、おそらく大きな差が出てくるはずだ。

われわれ民進党は少なくとも短期的に見て、戦略的利益は日本と一致している。また、日本の社会とは親しく付き合うことが可能であり、日本の社会は友好的だと感じている。われわれは8年間の政権担当期間中、日本との関係を大きく近付けるために本当に多くの心と力を割いてきた。

--個人的に、日本との関係があれば、教えていただきたい。

日本語を3年間勉強してみたことがある。日本語は私が最も得意な外国語ではない。おそらく、あまり上手ではない外国語だろう。
台湾は日本に統治された期間があり、日本が台湾を統治した期間について一定の評価がある。つまり、日本人には誤りもあったが、台湾に対する貢献もあった。これは、われわれが自ら体験したことであり、われわれは独自の評価を持っている。

私の家族について言えば、日本との関係はまずまずだ。私はよく日本を訪れている。観光したりあちこちを見て回ったりする。多くの台湾人と同じように、私も日本の文化に対して強い興味がある。

私は政治家となってからそれほど長くないので、日本の人脈は多くない。知り合いの大部分が貿易交渉を担当していた時に知り合った貿易担当の官僚たちだ。ただ今は貿易問題に従事していないので、こうした付き合いは続いていない。

--対日関係については、今後、どのような点を強化したいか。

戦略面で強化したい。というのも、戦略全体の利益を共同で確認することは、台日関係にとって最も重要な作業だ。この対話は継続中だ。テーブル上に限らず、多くの場合は私的でテーブル上に表れないものだ。こうした対話は、われわれは継続して進めるし、強化していく。

日本政府はより積極的に台湾と対話を行うべきだ。特にこうした共通の戦略的利益の確認は、重要な作業だ。アジアでは今後10~20年、多くの変化が発生するだろう。こうした変化の中で、台湾と日本はどの程度協力でき、互いに最大の利益を獲得できるかが課題だ。

日本では1年に1回、首相が交代しているが、政策あるいは対話のシステムにおいての連続性を希望している。また政府間の対話システムのほかに、政党間の対話システムも非常に重要だ。1年に1回、首相が交代する状況の中で、政党というものが政府よりも政策面において重要な対話のシステムになっている。このため、日本の主要政党と連続性のある対話を維持することを希望している。日本の政府、政党を問わず、民進党と緊密な対話を保ってくれることを望んでいる。

釣魚台の問題については、民進党が政権を担当して以来、非常に明確な政策がある。釣魚台は台湾に属している、ということだ。釣魚台が台湾の領土だと主張している。

しかし、日本も自分たちの領土だと主張していることは知っている。領土の主張の上では衝突している。しかしこのことが短期内に解決できないのであれば、領土の概念から導き出される経済利益について、共同で発展させることができるはずだ。この前提の下で、相互に討論することが可能だ。領土の問題については、それぞれが各自に主張する。しかし領土の概念から引き出される経済利益は、双方が共同で享受する。これがわれわれの基本的な理念だ。

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