台湾経済の最大の課題は内需拡大だ--蔡英文・台湾民進党主席

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--とはいえ、現在、民進党は与党ではない。現政権に対しどう実行を迫るのか。

台湾の現在の経済状況に対応するには、経験のある政権が必要だ。民進党は8年間の政権担当を経て、その財政・経済チームは比較的に成熟し、経験を持ったものとなっている。しかし残念なことに、最も重要な時期に政権が交代した。その結果、新しい財政・経済官僚に交代した。

現政権の財政・経済官僚は2000年以前に国民党が政権を担当していたころの官僚だ。彼らは8年間、政権から遠ざかっていたため、現実からかけ離れてしまっている。依然として前世紀の考え方だ。

つまり単純な政策の問題ではなく、実際に政策を処理する人の経験、および民意、人民の心理に対する理解能力の問題がある。現在の官僚でこうしたものを持っている人は多くなく、民進党政権期の財政・経済官僚に教えを請うべきだ。

しかし最大の問題は、人民のこの内閣に対する基本的な信頼がすでに崩れていることだ。

--かつて民進党は財政・経済面の人材が不足しているといわれてきたが、この8年の政権担当で民進党にはすでに経験が蓄積されたのか。

政権担当のチャンスがあって初めて、政策担当の経験が生まれる。だからこそ、今回のわれわれ下野で政権運営経験を持つ人材が再び政権から離れてしまうことを最もおそれている。

民進党にはシンクタンクがあり、政権担当経験のある人材を集めている。そして、党本部と立法委員との共同で作業を進めている。そのため、どのような政策についてもいつでも討論できる。自分たちが政権を担当した時にどのような政策を進めるか、われわれはシミュレーションを行っている。そうすることで、将来、政権を奪取した際にも現実離れした政策を出すことはないはずだ。

馬英九政権の官僚が現実からかけ離れているのは、基本的な訓練の問題と、現在の需要に合わないことが原因だ。現在の台湾経済は、すでに台湾は台湾だけで作っていれば良いという輸出主導型の経済ではない。現在の台湾経済は世界の一部であり、世界経済全体の変動から影響を受ける。このため、世界経済に非常に習熟していることが必要だ。われわれが世界経済の変化に影響を与えることはできないが、その動きを掌握し、国内的に適切な対応を行う能力が必要だ。

このため財政・経済官僚は、2つの条件を満たしていなければならない。1つは世界経済の動きを理解すること。もう1つは台湾内部の構造を理解し、しかも人間の心理を掌握すること。この2つの条件の1つでも欠けていれば、優れた経済運営はできない。

また、台湾の政府全体を変革すること、すなわち優れた人材を政府にどう取り込んでいくか、だ。官僚、あるいは以前に政権を担当していた時期の政務官に依存するだけでなく、優れた人材を取り込んで直接に全局面をコントロールさせることだ。これは、台湾の政治システムでの最大の挑戦になる。

--とはいえ、民進党が政権を失ったのも、その経済運営に不満があったからだが。

しかし、人民も現政権になってから状況がさらに悪化したことを知っているはずだ。

実際に、民進党政権時代、台湾経済は安定状態を維持していたといえる。経済成長率は上昇していたし、物価上昇率は低水準を維持していた。失業率は3.7%から3.8%を維持した。外貨準備も増加した。経済成長は安定成長であり、貧富の差は許容範囲内にあった。多くの社会福祉政策、たとえば生活手当、低所得者手当などは、いずれも民進党時代に始まったものだ。こうした社会的セーフティネットは、民進党時代に構築された。

民進党の政権運営は全体的に見て悪くなかったはずだ。当初は比較的に経験が浅かった。しかし政権担当の後期には成熟を始めていた。確かに、われわれが政権を担当していた時期、国際的な経済状況は変化していた。このためこの社会は、格差が拡大の傾向を見せていた。そのため、格差社会の中で弱者の立場に置かれた人たちは、経済は悪いと感じるようになった。選挙では、この人たちの票が影響を与えることになる。

しかし現在、一般の有権者も、振り返ってみて民進党時代の政権運営は安定しており、良好だったと感じているはずだ。現在の政権の政治、経済の処理を見ると、民進党が悪かったというのなら、今の政権はもっと悪いといえる。

--世界的な競争、特に中国との競争の中で、台湾経済には次の競争力の核となるものが必要なのではないか。そうだとすれば、次の核となるのは何か。

台湾経済の体質は変わらなければならない。台湾の過去の形態はやはり製造だ。台湾の製造は能力が非常に高い。しかし製造業は、簡単に台湾から流出してしまう。台湾経済が完全に製造業に依存するとすれば、十分な収入と雇用を提供できない。このため、必ず研究・開発を中心とする産業に向かうべきで、研究・開発そのものは「インダストリー」だ。

例えば、民進党が政権を担当していた時代、ずっとバイオテクノロジーの研究・開発を強調してきた。バイオテクノロジーは、リサーチからディベロプメントまでがすなわち1つのインダストリーだ。製造の段階に入って初めてインダストリーだというわけではない。研究・開発そのものがインダストリーだ。

これは台湾の発展にとって非常に重要だ。なぜなら台湾には最高の科学者がいる。しかも多くの資本がある。政府がプラットフォームを確立しさえすれば、R&Dを中心とするインダストリーになれる。このことは、バイオテクノロジーだけでなく、多くの産業でも可能だ。特に台湾の「開放、自由」の雰囲気は、大きな創意の可能性をもたらしている。

ただし、これは高度な人材に関するものだ。社会には、基本的な仕事をする人たちが必要で、そのために良質のサービス業を発展させる必要がある。サービス業については、金融などといった高度なサービス業も発展させる必要があるが、大量の雇用を提供するサービス業をも発展させる必要がある。

こうした中で最大の産業になるのが、健康・介護産業であることは明確だ。台湾は高齢化が進む社会で、健康・介護を産業化できれば、多くの人が参加でき仕事を得られる。一方で、高齢者は世話を受けることができる。この産業の規模は非常に大きくなるはずだ。台湾にはその能力がある。というのも、台湾に医療設備、医療人材は非常に多いからだ。

もう1つは観光産業だ。中国からの観光客が来なければ台湾の観光産業は発展できないと考えている人も多いが、それは間違い。台湾の観光産業は、これまでもすでに徐々に高品質の産業に発展してきており、だからこそ日本や韓国、香港などから富裕層が台湾を訪れるようになった。

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