
オフィスの有効活用が企業価値と生産性を向上
ビジネスのグローバル化にともない、オフィスを取り巻く環境にも大きな変化が訪れている。ワーカーや働き方が多様化する一方で、オフィスという“資源”の活用もまた見直され始めてきたのである。
そうしたなか、近年あらためてクローズアップされているのが、「ファシリティマネジメント(FM)」の発想だ。
「ファシリティとは、オフィス環境や設備・施設をいいますが、広義には“人々が関与する『場』”のこと。経営組織の中心であり、働く人々が集う場所を指しています。つまりファシリティマネジメントとは、施設資産の管理運用だけでなく、オフィスを上手に使いこなすことによって企業の知的生産性や価値の向上を実現する手段そのものといえるのです」
そう説明するのは、松岡総合研究所代表取締役の松岡利昌氏。FMの必須教科書である『総解説ファシリティマネジメント』シリーズの編集委員長を務める、日本FM界の第一人者である。
「FMは2015年を目処に国際標準化(ISO)が進められており、今後は欧米の不動産建物関連企業が国内参入してくる可能性もあります。またここ数年は、再開発により利用価値の高い賃貸オフィスビルが次々に竣工。BCP対応、省エネ対応は当然のこと、広大なフロアを持つ“メガプレート”が昨今の主流となっています。これもファシリティの欧米化の表れといえるでしょう。それをどう使いこなすかはユーザー次第。ここにFMの手法が活きてくるんです」
“お引っ越し”からワークプレイスづくりへ
代表取締役 経営コンサルタント
松岡 利昌 氏
1959年生まれ。慶應義塾大学卒業後、米ハーバード大学留学を経て、88年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了(MBA取得)。外資系コンサルタント会社で経営戦略コンサルタントとして活躍後、91年独立。05年より名古屋大学施設計画推進室特任准教授。日本オフィス学会副会長、日本ファシリティマネジメント協会企画運営委員理事。
もともと欧米のオフィスのつくり方と日本のそれは、根本的に異なるという。
「欧米のオフィスは、スケルトンインフィル(SI)が基本なので、内部の間仕切りや設備はすべてテナントが設計する。何もないところからオフィスを構築していくんです。一方、日本のオフィスは、“机と電話さえあれば仕事はできる”という発想のもと、入居してすぐ使える標準仕様のビルが、マーケットに供給され続けてきた。その結果、オフィスづくりやその価値について考える機会を逃していたというわけです」
旧来のやり方も、バブル期のように“人を増やせば業績が伸びる”時代なら、通用したかもしれない。だが、少子化で就業人口が減りゆくなか、今後は量ではなく質にフォーカスした人材運用が求められていく。その際、個人の能力をいかに引き出せるかは、オフィスのあり方にかかっているといっても過言ではない。
「オフィス移転といえば、従来は数合わせのための“お引っ越し”でしかなかった。でも本来オフィスとは、コアビジネスの事業戦略を支える重要な場であるはず。知的生産性の高いワークプレイスを実現するためにも、まずは経営者の意識を変えていく必要があります」
“お引っ越し”から、より戦略的なワークプレイスづくりへ。それを主導するのは、事業戦略そのものに関わる人々でなければならない。すなわちオフィス移転に際しては、経営トップや経営企画、事業部担当者らが自ら積極的に関わっていくべきであるという。
「ビルの立地からグレード、設備、セキュリティの考え方まで、すべてが経営に影響してくるのですから、社内の一担当者任せにはできません。オフィスは、事業戦略や財務戦略と並ぶ重要な経営の柱。そう考えれば、オフィスの移転・改革は削らなければいけない“経費”ではなく、積極的に行うべき“投資”であるといえるでしょう」
実際、ワークプレイスの変更は、経営革新を加速化させる。オフィス移転を企業改革のチャンスと捉える企業も増えてきた。
「マネジメントの改善には、組織変更や事業方針の転換などさまざまな方法がありますが、もっともわかりやすく効果的なのは、オフィスそのものを変えてしまうこと。職場環境の改善は、そこで働く人のマインドに変化をもたらす。だからこそ、オフィスの移転・改革は、経営戦略に基づいたものでなければならないのです」
オフィス移転は経営改革のメッセージ
では、戦略的なワークプレイスづくりとはどうあるべきなのか。
「大切なのは、レイアウトをどうつくるかではなく、コミュニケーションをどうデザインするか。たとえば、旧来の島型対向式オフィスから固定席のないフリーアドレスにすることで、場所に縛られずさまざまな人と対話し、協働することができる。他部署との交流やコラボレーションを図ることにより、情報共有や知識の培養が行われるというメリットもあります。その一方で、個人が集中できる環境の整備も必要です。ワーカーのモチベーションと知的創造力を高めるには、“オープン”と“集中”どちらの場も不可欠。幸い、今のビルは間仕切りを自由に変更できるタイプが多いので、その企業のワークスタイルに合わせた細かな設計が可能です」
オフィスという「場」が改善されることによって、企業や組織の雰囲気はガラリと変わる。それは、経営者から従業員への強烈なメッセージともなる。新しい働き方を通じて、ワーカーたちは企業の経営方針を身をもって認識するというわけである。
「戦略的なオフィス移転に成功している企業は、どこも経営者の意識が高い。ビルの選択やワークプレイスづくりに明確なビジョンを持っています。それは経営のビジョンと言い換えてもいい。オフィス移転はそれを実践する有効な手段。経営改革の一環として、積極的に取り組むべきテーマといえます」