「TX」次々繰り出す対策でトラブル減らせるか つくばエクスプレス20秒早発は大問題だった

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従来のやり方を否定する思い切った施策の導入に際し、現場では実効性への疑問の声も出た。JR西日本労働組合の荻山市朗中央執行委員長は、「ミスをしてもしなくても評価が同じというのはおかしいのではないか、ミスしても懲戒されないならミスをなくそうという意欲が湧かないのではないかといった懸念が相次いだ」と明かした。

ただ、積極的にミスを報告してもらい、その原因を一つずつ摘み取った結果、成果が少しずつ表れてきた。たとえば「報告をまとめてみたところ速度オーバーしやすい区間がわかってきたので、運転士に注意を促すなどの対策を講じたら、速度オーバー件数は3割減った」と、緒方副社長は説明する。ミスを報告するという施策がなければ、実現は不可能だった。

昨年12月11日、東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」が走行中に異常音や異臭などの不具合が生じ、名古屋で運転を中止した。調査の結果、13号車の台車に亀裂が生じていたことが判明した(写真:共同通信)

だが、安全最優先の取り組みがようやく根付き始めたかと思われた矢先、新幹線の台車亀裂という「重大インシデント」が昨年12月に起きた。このトラブルでは、JR西日本の社員は新幹線の走行中に異臭や異音を感じていたにもかかわらず列車を止めなかった(「『のぞみ』台車亀裂、2つの原因は"人災"だった」)。

「台車問題と福知山線の事故は、予兆があったにもかかわらず安全な行動を取れなかったという点で似ている」と、遺族のひとりは壇上で指摘した。

20秒早発の理由は「勘違い」

台車トラブルを重く見たJR西日本は「車両保守担当社員と指令員は運行停止に関する判断を相互に依存する状況にあった」「運行停止に関する判断基準もあいまいであった」などとしたうえで、連携強化、情報伝達の強化などソフト面の対策を即座に講じた。同時に、異常を判断する装置の設置などハード面の対策も行っていきたいとしている。

しかし、「JR西日本の組織全体に安全最優先の思想は根付いていなかった」と、有識者などで構成される第三者委員会は指摘している。つまり、安全最優先の経営ができていないのであれば、新幹線のトラブル対策は対症療法にすぎず、別のトラブルがまた起きるかもしれないということだ。

話をTXに戻す。列車早発トラブルはなぜ起き、どのようにしたら再発を防止できるか。実は早発トラブルは今回だけではない。2015年以降、計4回起きていた。列車早発トラブルの原因を探ると、運転士による発車時刻の勘違いが今回を含め3回あった。ちなみに残りの1回は、反対ホームの出発メロディを自分の列車の出発メロディと勘違いして出発操作をしてしまったというものだった。その意味では4回すべての原因が勘違いだ。

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