「TX」次々繰り出す対策でトラブル減らせるか つくばエクスプレス20秒早発は大問題だった

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TXは開業時に新型車両を導入し、全駅にホームドアを備える。設備の安全性は折り紙付きだが、適切に運用されなければ、安全性は揺らぎかねない(撮影:大澤 誠)

過去の早発トラブルでは、1分早く出発し列車に乗れない客が出たケースもあった。外国メディアのように面白がるわけにはいかない。TXは、出発時刻確認を促すシールを駅ホーム上の運転士から見やすい位置に張るなどの対策をトラブルの都度、講じてきた。今回の早発トラブルを受けて、運転台に掲示する運転スケジュール表をより見やすいものに改めるという対策を取った。

早発以外の運行トラブルとして、TXは2015年から2017年にかけ3回のオーバーランを起こしている。その原因はいずれも運転装置の切り替えミスでブレーキ操作が遅れるという基本動作に関連したものだった。これまではトラブル発生の都度、「基本動作の励行の再徹底」といった精神論的な対策にとどまっていた。

しかし、JR西日本の言う「ヒューマンエラーは結果であり、原因ではない」という考え方に照らせば、基本動作を再徹底しても問題は解決しない。エラーの原因を探る必要がある。TXは運転装置の切り替え間違いという部分に着目し、すべての列車の運転台に運転状態が表示されるよう改修を施すことを決めた。5月15日までに完了する予定だ。

「人はミスをする、システムは故障する」

列車運行部門以外でも対策を講じている。急増する旅客数に人員数が追いつかず不足が指摘されてきた駅スタッフについては、4月以降、主要駅で朝ラッシュや夕夜間時に警備員を増強するといった措置を講じた。

TXが車体更新場に導入した、転落防止用の巨大シャッター(写真:大澤 誠)

昨年10月に稼働した車体更新場では、作業員が車両の屋根を2階から補修する際に転落を防止するため、長さ21m、幅3mという巨大シャッターを設置した。これまでの「基本動作の励行の再徹底」という精神論的なものにとどまることなく、ソフト、ハード両面から対策を講じているという点で、TXの安全対策は一歩前進したように見える。

ただ、思わぬ死角からトラブルが起きるのはJR西日本の例を見るまでもない。福知山線事故の「安全フォローアップ会議」で座長を務めた西川榮一・神戸商船大学名誉教授は「追悼と安全のつどい」に登壇し、「人はミスをする、技術・システムは故障するという前提に立ち、自分たちの活動を不断にチェックし、修正や改善を行う必要がある」と指摘。そのうえで、「経営トップもミスをするという視点を忘れず、外部からのチェックも必要だ」と警鐘を鳴らした。

TXの東京都側の始発・終着駅は秋葉原駅だが、東京駅への延伸構想がある。また、茨城県側の始発・終着駅はつくば駅だが、5月8日には県内7市議会から茨城空港への延伸要望が飛び出した。茨城と都内を結ぶアクセス鉄道として沿線住民からの期待は高まる一方だ。それだけに安全への取り組みに手を抜くことは許されない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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