カイゼンは業務か、それとも自己研鑽か--『QC』を業務と認めるトヨタ過労死裁判の波紋

カイゼンは業務か、それとも自己研鑽か--『QC』を業務と認めるトヨタ過労死裁判の波紋

「判決は当然だったと思います。夫も父も祖父も、トヨタ自動車には3代で勤めてきており、会見などで顔を出すプレッシャーもありました。それでも夫の過労死という事実は消えない。彼の努力を認めてほしかったし、裁判をやめようという気は起きませんでした」

そう振り返るのは内野博子さん。トヨタ自動車で夜勤残業中に倒れ、急死した内野健一さん(当時30)の妻である。

2007年11月30日、名古屋地裁はある画期的な判決を下した。内野健一さんの死を「過労死」(労災)と認定したのだ。「QC(品質管理)」サークルなどトヨタの躍進を支えてきた“自発的なカイゼン活動”を、初めて裁判所が“業務”と判断した瞬間である。昨年12月14日、国は控訴を断念、判決が確定した。

この裁判の発端は、健一さんが02年に死亡した直後、博子さんが豊田労働基準監督署に労災認定を申請したことにさかのぼる。しかし、豊田労基署は、健一さんの死を労災と認めなかった。

労基署の判断に納得できない博子さんは、その後、愛知労働局労働保険審査官に不服審査を申し立てたが、ここでも労災は認められず、05年、ついに国と労基署を訴える裁判に踏み切ることになる。

定時で終われるのは皆無 土日もサービス残業

健一さんが急死したのは、02年2月9日午前4時20分ごろ。当時、トヨタ自動車・堤工場(愛知県豊田市)の工場車体部でEX(エキスパート=いわゆる班長職)として働いていた健一さんは、2月8日午後からの二直勤務(遅番)に続く残業中に工場内の詰め所で倒れ、搬送先の病院で亡くなった。

裁判所での博子さんの陳述によれば、健一さんはライン外の品質検査業務を担当。不具合が出ないように各所の調整に走り回り、定時で上がれることは皆無。妻の博子さんだけでなく、職場の一部の同僚も健一さんの過労死を心配する状況だったという。

裁判ではまず、健一さんの長時間労働が争点になった。直前1カ月の時間外労働時間は、内野さん側の計算によれば144時間35分だったが、労基署側の計算では45時間35分。国の言い分は、ライン停止後に工場内で居残っていた時間には雑談の時間も含まれており、工場にいた時間のすべてを仕事に充てていたかどうかわからない、というものだった(判決は106時間45分と認定)。

しかし、健一さんを会社に長時間拘束していたのは、QCサークル活動や「創意工夫ていあん活動」「EX会活動」交通安全活動など、いずれも会社の業務と関連するものばかりだ。

特に若手のEXとして、GL(グループリーダー)を補佐する中堅的役割が期待されていた健一さんの負担は、日増しに重くなる一方。QC活動は人事評価の対象とされ、健一さんも深夜早朝や土日を潰して、資料作成などのサービス残業に当たっていたという。

トヨタ内部においては、こうした工場の生産に直結しない活動は「仕事ではない」、あるいは「自己研鑽」などと、中途半端な位置づけに置かれてきた。だが、過労死認定をめぐる内野さんの裁判は、トヨタの労務管理にも少なからぬ影響を与えたようだ。

健一さんが亡くなった当時、トヨタ堤工場はタイムカードによる労働時間の管理を行っていなかったが、原告側の代理人として一連の裁判を支えてきた水野幹男弁護士によれば「内野さんの事件以降、トヨタはカードリーダーを導入した。それがその後に亡くなったエンジニアの過労死認定にもつながっている」という。

そして昨年11月の判決から約半年。トヨタは6月から、時間外に行うQC活動の残業代について、月2時間と定めていた上限を撤廃、全額支払う方針へと大きく舵を切った。“自己研鑽”と位置づけてきたQC活動を、ついにトヨタ自らが“業務”と認めたのだ。

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