朝鮮半島全域が「中国の勢力圏内」に収まる日 「現状維持」が日本にとって最も望ましい

拡大
縮小

しかし、仮に北朝鮮の非核化が進み、その共通の脅威が後退すれば、日米韓あるいは日米韓中の連携の必要性も低下する。したがって、今後は、この3国ないしは4国の間の利害対立が際立つこととなると予測できるのである。

第二に、アメリカの東アジアにおけるプレゼンスが後退し、代わって中国の勢力が増大する可能性がある。

おそらく北朝鮮は、朝鮮半島の非核化の条件として、在韓米軍の撤退を要求するだろう。というのも、北朝鮮にしてみれば、在韓米軍というのど元の刃物があるかぎり、核兵器を手放すことはできないからだ。

また在韓米軍に核兵器が配備される可能性があるかぎり、板門店宣言が掲げる「朝鮮半島(「北朝鮮」ではない!)の非核化」は完全には実現しないという理屈も十分に成り立つ(「在韓米軍への核再配備を検討 米NSC、大統領に提案」)。

しかも、仮に朝鮮戦争の終戦が実現し、南北朝鮮が平和協定を締結することになれば、在韓米軍の存在意義が低下する。そうなると、北朝鮮だけでなく韓国もまた、在韓米軍の縮小または撤退を要求する可能性が出てくるだろう。いや、それどころか、トランプ大統領ならば、在韓米軍の撤退を自ら選択しかねない(「トランプ、貿易赤字を理由に在韓米軍撤退を示唆? 国防総省が慌てて火消し」)。

こうして南北朝鮮の融和が、米韓の連帯を弱めるのである。

すでに韓国には中国と対立する理由も能力もない

さて、もしアメリカが在韓米軍を縮小ないしは撤退させた場合、アメリカの東アジアにおけるプレゼンスは大幅に低下することとなる。代わって東アジアにおける勢力圏を拡大するのは、言うまでもなく中国である。

中国は強大な軍事力を有しているのみならず、韓国に近接している。加えて韓国経済は、中国市場に大きく依存するようになっている。要するに、すでに韓国には、中国と対立する理由も能力もなくなっているということだ。

この上、もしアメリカが韓国から後退するようなことになれば、朝鮮半島全域が中国の勢力圏内に収まることとなろう。これは、日本にとって、中国の脅威の増大を意味することは言うまでもない。

トランプ大統領は、この南北首脳会談を大いに歓迎し、自らの外交成果として誇示している。おそらく、彼には、朝鮮半島の非核化や朝鮮戦争の終戦が、東アジアにおけるアメリカの後退と中国の台頭という地政学的変化の引き金を引くだろうなどとは、思いもよらないのであろう。

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