”ゼロゼロ物件”の被害続出! 住宅「貧困ビジネス」の強欲

”ゼロゼロ物件”の被害続出! 住宅「貧困ビジネス」の強欲

敷金ゼロ、礼金ゼロ、仲介手数料ゼロをうたい文句にした「ゼロゼロ物件」の入居者5人が10月8日、家賃支払いが数日遅れただけで部屋の鍵が交換され、違約金を払わされたのは違法として、不動産会社「スマイルサービス」を相手取り、計約1200万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。訴えによると、スマイル社は家賃支払いが1日でも遅れると無断で鍵を交換し居住者を締め出していた。新しい鍵を受け取るには、家賃1割に当たる「違約金」と1・5万円超の「施設再利用料」の支払いが求められた。

「夜勤明けで寝ていたら、突然スマイルの社員が土足で部屋の中に入って来た。『すぐに出て行ってください』と有無を言わせず目の前で鍵交換され、着の身着のままでたたき出された」。14回も鍵の交換をされた原告の土田政彦さん(29)は憤る。

土田さんは完全歩合制のセールスや日雇い派遣で食いつないでおり、収入が不安定だった。「支払日にどうしても間に合わず、数日遅れると連絡していても鍵を交換された。支払日当日にスマイル社の社員がやってきて、期限前なのに『もう来てしまったので』などと言われ、締め出されたことすらあった」と言う。

被害対策弁護団(宇都宮健児団長)は「非正規雇用など低所得者や弱者を狙いとした、悪質な『貧困ビジネス』だ」と警鐘を鳴らす。

違法ずくめの手法でも入居希望は引きもきらず

スマイル社は2002年12月に設立。新宿区、渋谷区など城西地区を軸に拡大を続け、約5000戸の不動産賃貸を行っているとされる。急拡大の過程で同社の被害に遭ったのは、原告らだけにとどまらない。

「家庭の事情で単身上京してきたばかりで、保証人を立てることができなかった。そこで保証人不要のスマイル社に飛びついてしまった」。山辺貴子さん(仮名、36)が入居したのは06年11月。本職のバーテンダーは完全歩合制で収入は安定せず、家賃の支払日前には日雇い派遣でしのいだこともたびたびだった。

昨年夏、どうしても資金繰りがつかず、家賃を数日間滞納したことがあった。ある日、ロフトで寝ていた山辺さんが目を覚ますと、部屋の中に見知らぬ男性が立っていた。鍵の交換に来たスマイル社の社員だった。「泥棒かと思い叫びそうになった。事前の連絡もなく、まさか不動産会社が女性の部屋に無断で立ち入るとは思わなかった」と振り返る。

「仕事を終えてクタクタになってドアを開けようとしたら鍵交換がされていた。これから俺、どうなるんだろうとパニックになり死ぬことすら考えた」。コンビニアルバイトの田中光彦さん(仮名、31)は当時の心境を振り返る。パニックとなったのには理由がある。田中さんは3年前に重病を患い、服薬を1日足りとも欠かすことができなかったためだ。漫画喫茶で夜を明かした翌日、せめて薬だけでも取りに戻らせてほしいとスマイル社に掛け合ったが、けんもほろろだった。

田中さんが消費者生活センターを通して交渉したところ、スマイル社は「契約どおりに荷物は撤去した」と告げてきた。「テレビ、冷蔵庫、洗濯機のような家具だけでなく、実印、預金通帳、年金手帳などの貴重品も一切合切撤去された」(田中さん)。外出時に所持していたアルバイトの制服と所持金を除き、すべてを奪われたうえで追い出された。

実際、弁護団が今年7月に実施した電話相談には違約金16件、部屋への無断立ち入り9件、鍵交換12件、荷物撤去6件(重複あり)の事例が寄せられている。  

こうした事例について、スマイル社は「現在係争中に付きコメントできない」とするが、鍵交換や荷物撤去など同様の内容で起こされている裁判の場では、「違約金および鍵の交換については、いずれも契約締結時に十分に賃借人に説明しており、賃借人もその内容に合意して契約している」などと主張している。

だが「年率換算すると数千%と暴利の違約金や、住居侵入罪や窃盗罪に当たる可能性がある鍵交換や荷物撤去などの契約は、公序良俗に反して無効のはず。家賃の不払いで退去を求めるには、勝訴判決を得て強制執行を行うといった手順を経る必要がある」と弁護団は指摘する。

実際スマイル社も、今では要求すれば違約金の返還に応じており、裁判でも「その内容には行き過ぎだと思われる部分もあり、適正な金銭的解決を希望する」と白旗を揚げている。つまり入居者の法の無知につけ込んだ確信犯だったということだ。

スマイル社がアンフェアなこうした行為を続けられるのも、一定の需要があるからだ。集団提訴が報じられてから数日後の休日、新宿駅西口から徒歩数分のスマイル社の店舗をのぞいてみた。カウンターの相談窓口は若い男女が多数訪れている。民間調査会社の資料によれば同社の5000戸の物件のうち、「現在空室は50戸もない状態。空室となってもすぐに入居者が決まることが多い」という。

そのわけをスマイル社は裁判の場でこう語っている。「地方から上京した者が労働者として雇用されるためには、身元の確実性が求められ、定住場所も必要になる。しかしながら従来の賃貸借契約では、敷金2カ月分、礼金2カ月分、仲介手数料1カ月分、前払い家賃1カ月分で、合計6カ月分に相当する資金がなくてはならなかった。そこで低額で賃貸借契約を締結することができるようにしたのだ」。

臆面もない言い方だがスマイル社の主張に一面の真実があるのは、住宅政策の貧困の裏返しともいえる。

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