ノートパソコン「発火事故」が増える根本原因 パナソニックは116万台のリコールを発表

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リチウムイオン電池は、ほかの電池と比べて高電圧で重量あたりのエネルギー量(エネルギー密度)が多い。小型でも高性能な反面、電池の正極と負極に使われる電解液は可燃性の物質を大量に含んでおり、消防法は、灯油や軽油と同じグループ(40度以下で引火)に分類している。電気を通す物質の混入などで正極と負極が触れ合い、ショートが起きて発熱すれば、たちまち爆発的に燃え上がってしまう。

近年では、エネルギー密度を上げ、小型でもより高出力なリチウムイオン電池の搭載が増えている。一方で「エネルギー密度と安全性はトレードオフの関係にある。性能を追求するため、無理のある作りになっている場合もあるのではないか」(リチウムイオン電池に詳しい東京大学大学院工学系研究科の山田淳夫教授)との見方もある。

「燃えない電池」の研究が進む

高い性能と安全性を両立させる方法はないのか。一つは、電解質を固体化することで液漏れがない「全固体電池」の活用だ。トヨタ自動車が2020年代前半の電気自動車(EV)への搭載を目指して開発を進めるほか、韓国や中国など、世界中で開発熱が高まっている。

ただ本当に高い性能を発揮できるかは未知数だ。材料の中には、空気中で有毒ガスを発生させる硫化水素を含むなど、量産技術確立のハードルは高い。また、「性能テスト中に試作品が燃えた」(試験装置メーカー関係者)との報告もある。“夢の電池”と見るのは時期尚早だ。

そこで、電解質は液体のまま、燃えない電池を作る研究も進んでいる。前出の山田教授ら東大などの研究チームは2017年、「絶対に発火しない電池」の開発を発表。電解質には引火点がない難燃性の材料を用い、200度以上に温度が上昇すると、気化して発生した蒸気が消火機能を果たすという画期的なもの。「現在の延長線上にある製造技術で作れるため、企業からの引き合いはある」(山田教授)。

1991年に製品化されて以来、今や生活に不可欠な存在となったリチウムイオン電池。モバイル機器のみならずEV用としても主流になったが、万が一爆発したら人命にかかわる。便利さの裏にある危険性への対処は、喫緊の課題だ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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